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静かなところに場所をかえた。アジサシくんが真剣な表情。メガネ姿がちょっとセクシー。
「いいですか、七乃さん」
いいですとも。お姉さんがどーんと受け止めてあげようじゃない。かかってきなさいよ。酔ってボケっとした頭の中でファイティングポーズ。
「ただ小説を書くだけじゃ、ダメなんですよ」
おっとぉ、学生時代にもどりましたか、アジサシくん。直球勝負できましたね。
私達は喫茶店に席を占めていた。話しやすいところって、ここのことだったのね。健全か。いや、まあ。アジサシくんとどうにかなっちゃうのって、ビビッてはおりましたが。
でも、この照明ギンギンの店は、今の私の顔のことを考えると、ちょっとなんというか、怖ろしいお店。これだけでいくらかダメージがあるというもの。同じ喫茶店でも、もうすこし照明の落としてある落ち着いた雰囲気の店ってあるじゃない?なぜここなの。
いや、わかっている。アジサシくんのことだ。安いチェーンのコーヒー屋だから、ここにしたに違いないのだ。怖ろしい、数学者の卵、孵らず。
ちなみにアジサシくんが書くのは小説ではない。評論かな、ジャンル的には。だから気軽にエラそうなことを、創作系の私にのたまうのだ。
「ほかに何があるっていうの。できるだけいい小説を書くことしかできないんじゃないの?」
「ああ、なにもわかってない。日本の家電メーカーかよ。誰が七乃さんの小説なんか読むんですか。七乃さんが小説書いていることなんて誰も知りませんよ、世間の人は」
「そりゃ、素人だもん。村上春樹じゃないんだもん」
「全然そんなレベルじゃないでしょう。よくその口で村上春樹なんて名前が出せますね」
ひどい言われよう。どうせ、七乃さんの小説なんかですよぅだ。
「はい」
こちらにタブレットを差し出している。こんなものいつでも持ち歩いているのか。今は黒のデイバッグからビジネス・バッグに出世している。あの中にいれていたようだ。
「私のカクヨムでしょ?」
「PVいくつですか。十三って。十三人しか読んでないんですよ。その人間が村上春樹をよく口にできますね」
申し訳ない。村上春樹、ごめんよ。口にするのもおこがましかったよ、私は。
私の新作。十三人読んでくれてたんだね。楽しんでもらえたらよいのだけれど。でも、レビューも応援コメントもない。どんな感想をもってくれたかわからないや。
「次にこれ」
「私のツイッター。なんか文句あるの?」
「文句以前、沈黙、点々々ですよ。なんですかこれ。カクヨムのサイトからツイッターボタン押しただけでしょ。ほかのツイート全然ないし。だからフォロワーだって二十五人しかいないんです。やる気あんのかボケっていうのも、エネルギーがもったいない」
だって、なに書いていいかわかんないし。せっかく小説書いたんだからツイッターで宣伝したいし。そしたら、こうなるでしょうよ。
さっきからひどいことばっかり。そんなこと言うなら、もっとこうしろとか建設的なことを述べてはどうなんですかね。年下のくせに。エラそうに説教たれちゃってさ。
「PVっていうのは、小説面白いとか関係ないでしょ。PVがあって、はじめて小説の内容をうんぬんすることが許されるんですよ。キャッチフレーズと紹介文、タイトル。このみっつだけで、読むかどうか決めるんですよね。キャッチフレーズも紹介文もないっていうのはどういうことですか。私の小説読まないでって言ってるようなものですよ」
「うーん、小説書くと燃え尽きてそこまで考えられないっていうか」
「ゴミを生んで燃え尽きてどうするんですか。ゴミなんてどうでもいいんですよ、まずはキャッチフレーズ。それから紹介文、タイトル。これが大事だって言っているんです」
ゴミ。私の小説、ゴミ。どうでもいい。
学生の頃のアジサシくんに同じこと言われてもなんとも感じなかったと思うけれど、カッコよくなったアジサシくんにこんなにいわれると、堪えるものがある。お前のパンチ、効いたぜ。
「マーケティングですよ。まずはマーケティングが必要なんです。小説でも同じ、商品として売るにはマーケティングをしないとダメなんです」
ここでブチ切れてしまったのだなあ、私。まわりに他のお客さんだっていたというのに、テーブルにばしーんと手をついて立ち上がり、
そんなに言うなら、私の小説売ってよ!と啖呵を切ってしまった。
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