第113話


「どういうことなんだ……、なんだ友達って! モニカっちは魔族なんだぞ! ヒト族と友達になれるわけがないだろう! 黙ってないで説明しろよクリスティアン!」


「うん、だから聞いて?」


「言い訳なんか聞きたくないッ」


「聞いて?」


 温情で縄を解いてもらったクリスティアンによるナタリーの説得は困難を極めていた。主に彼女が話を聞かないために。


「それもただの魔族じゃない! 彼女は私たち魔族を統べる魔王の役割を持つ子なんだぞ!」


「魔王って大声で言わないでよ……」


「やっぱりお前は操られているんだ……! くそっ! あの時せめて誰かが傍に居れば……!」


「一発ぶん殴ったほうが早いんじゃねえか?」


「さんせぇ」


「待ってッ! まだその判断は早いからッ! もう少しだけ、もう少しだけ時間をくれ、ください!!」


 ウォーミングアップを開始した彼女をクリスティアンは必死で、それはもう必死で止める。彼女の一発は息の根を止める一発になりかねない。

 彼の必死な対応にもむなしく、今まさに命に危険が迫っているナタリーは止せば良いのにその口を閉じようとしなかった。


「そいつがあの山賊アドラってことは、そこのディアナとか言う女は賢者ディアナだな!」


「そうだよぉ」


「酒に酔った勢いで面白半分に高火力魔法で軍団を屠ったおににも劣る腐れ外道のッ!」


「人違いですぅ」


「嘘つけ」


「もぉ! ウチはお酒に酔った勢いではしないよぉ!」


「じゃあ何でしたんだよ」


「……どれだけ威力が出るか試したくなって?」


「ほぼ合っているじゃねえか」


「お酒に酔いつぶれてなんて不名誉迷惑だよぉう!」


 彼女はその豊満な胸を大きく弾ませながらぶりっ子のようにぷりぷり怒る。馬鹿な男であれば鼻の下を伸ばしそうに光景に送られるのはアドラの冷ややかな視線だけだった。


「あれぇ? 何か足りない気が」


「二人とも私たち魔族の天敵じゃないか! なんでそんな奴らと一緒に居るっ!」


「待て。あたしをディアナこいつと一緒にするな」


「まぁ、良いか。え? えー、あんたも往生際悪いんじゃなぁい?」


「あたしはお前ほど悪さをしちゃいねえよ」


「確かにあんたのことを知っているなんて相当前線に居たんだねぇ、これ」


「アドラ、ディアナ」


 昔を思い出した始めた二人の服をくいくいとモニカが引っ張った。


「うぅん? ああ、大丈夫だよぉ、殴るといっても別に殺すわけじゃないからぁ」


「そうじゃない」


 会話の内容からまた不安になってしまったのかと、ディアナがしゃがみ込んで視線を合わせれば、予想に反して彼女は首を横に振る。


「モニカはまおー」


「そうだねぇ」


「パパがひみつっていってた」


「そりゃぁヒト族の領域でわざわざ口に出すことじゃないしねぇ」


「よいの?」


「なに……がぁ」


 彼女の指差す先へと目を向けたディアナが小さくやっちまったと声を絞り出す。あちゃぁ、と手で顔を覆った彼女が見たのは。


 ずっと黙り続けたまま顔を伏せるマリナであった。


「そうだ。これにちゃんと説明してないんだったぁ……」


「……ぉい」


「これはアドラも同罪ということでぇ」


「…………ず」


「マリナ様ぁ? ちゃぁんとあとで説明しますんでぇ、いますぐこの子とかを殺すとするのはちょぉっと待ってもらえないかなぁって思うわけでというかアドラとここで一戦するとかまじめんどうで」


「ずるいですのォォオオオオオオオ!!」


 数話分溜め込んだ彼女の絶叫が迸った。

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