第112話
「く、くくくクリスティァアアア! クリスティぁああ!」
「あ、お姉さん大丈夫?」
「くり、え? だ、だれ君……」
「僕はレオだよ。あそこのええと……、大きな剣を持った人の息子なんだ」
さすがの
「あ、これはご丁寧に。ナタリーって言います」
思わず彼女が挨拶を返してしまったのは、それだけ彼の笑顔が無邪気で敵意のないものであったから。
決して彼女の性格が単純で騙されやすいからではない。
「多分、本当にどうこうする気はないと思うから、ええと、もう少しだけ待っていてもらえますか? もう少ししたらママもディアナさんも満足すると思うので」
「は、はい。そういうことなら……、待って!? 見て、あそこっ、火がっ! 足元の火が燃え始めているけど!?」
「あはは。大丈夫だよ。ほら、すぐに消したでしょ?」
「どうして笑ってられるのかな!? え、違うよね! 君ぐらいの年齢の子がして良い反応じゃないよね!?」
「僕の村でも悪いことした人にはよくああやって、めっ、ってしてたから」
「ちょっと……、言っている意味が分からない、かな。どういう、え? ヒト族って、そうなの……?」
「んー……、秘密だよ? 僕の村は山賊の村なんだよ。だから、ちょっとだけ手荒だってママが言ってたかな」
「そうなんだぁ……、じゃあ君も山賊の役割なんだね? 小さいのに大変だね」
「あ、ええと……、僕はそうじゃないかな」
「ん? あ、そうか。別の母親が山賊だからってそうじゃないもんね。じゃあ君は大人になれば街に行けるんだ、良かったね」
「ぅぅん……」
すっかり世間話を始めてしまう二人は、片方が縄で縛られて地面に転がっている状況でなければ微笑ましいものだっただろう。ついでにいえば、その背後で磔にされた男の周りを松明を持った三人が踊り狂っていなければ。
「それにしても、巨剣を背負った山賊で息子の名前がレオだなんて、まるでアドラみたいだね」
「え?」
「まあ、あれはおとぎ話みたいな存在だしこんな港街の近くに居るわけないけど、ん? どうかした?」
当然会話に出てきた母の名前にレオは驚きを隠せなかった。驚く彼の表情は、まるで。
「……え、まさか。本当に、アドラ……? じゃ、じゃあ君は、え? まさか」
「そこまでだ」
「ママっ!?」
クリスティアンで遊んでいたはずのアドラがひょいと息子を抱き上げる。ナタリーを見下ろす彼女の顔には明確な殺意が籠っていた。
「どっちにしろここで死ぬんだ。知る必要もねえことだろう」
「やっぱり……、やっぱりその子が勇者かッ!? くそ、解け!! クリスティアン!! 何をしている!! 勇者だぞ!! 勇者がそこに居るんだ、はやく殺せ!!」
「待ってくれ、ナタリー! そうじゃないんだ、私の話を」
「縛られながら恰好付けな台詞を吐くんじゃない!」
「縛られているのは君もだろう!?」
「なははぁ、収集がつかなくなってきたよぅ」
「簡単な話だ」
息子を片手に抱えたままで、アドラは巨剣を構える。
「こうしちまえば良い」
「アドラ」
「……うん?」
ナタリーの顔が真っ赤な花火に変わるのを阻止したのは、小さなモニカの手。くいくいとアドラの服を引っ張る彼女は帽子が落ちないように一生懸命をアドラの顔を覗き見る。
「ころしちゃだめ」
「……あたしはヒトで、こいつは魔族なんだが?」
「おねがい」
「レオを殺せって言いやがったんだが?」
「あとでごめんなさいさせる」
「友達か」
「パパの」
「……」
「ママ、僕からもお願い」
「良いわよ」
「最初からこうすれば良かった。とか言ったほうが良いのかなぁ」
「うるせぇ」
不貞腐れたアドラが高速頬ずりへとシフトし、レオが悲痛な叫びをあげることになる。
モニカは、地面に転がるナタリーの顔をじっと見つめて、
「モ、モニカっち! そいつらはヒトなんだ! 危険なんだ、だからふぎゃ」
「モニカのともだちいじめないで」
ぺちっと、彼女の顔を叩いた。
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