第110話


「解呪! はやく解呪しろやッ!」


「あれだけ魔力をがっつり練られてると隙でもつかないと無理だってぇ!」


「賢者だろうが、なんとかしろ!?」


「そんなこと言うならあんたが突貫して隙作ってきてよぅ!!」


「ママッ! ディアナさん!」


「ちッ」


「ぁんもぉ!」


「後ろぉ!!」


 ディアナに抱きしめられて後ろを向いたままのレオからの声が届く、二人は左右に大きく跳ねる。


 ――ドォォン!!


「おー、かっこいい」


「それはどぉもう!」


 モニカの賞賛は、後ろを見ることなく攻撃を察知し避けた二人の行動に対してか、それとも。

 すぐ背後に迫る5mを超える巨人に対してなのだろうか。


「自慢の馬鹿力であの拳相殺してよぉ!」


「無茶言うなッ!? ただの山賊だぞあたしはッ!!」


 拳を振り下ろすだけでクレーターを生み出すその巨体の名は、一つ目の巨人キュクロープス

 本来であれば荒れ狂う火山や吹雪舞う冬山などの人が踏み込めない地にのみ生息する巨大な一つ目の化け物である。


 それが港町傍の林に居るということは、それはつまり


「変身魔法っていっても限度があんだろ! どうやったらあんなふざけたもんに化けれんだよ!!」


「それはやっぱり魔族だからとかなんじゃなぁい!」


「デ、ディアナさん!」


「なぁにぃ、レオくぅん? おっぱいのサイズだったら今度落ち着いたところで」


「ぶっ殺すぞてめぇ!! てか、なに人の息子抱いてんだ返せッッ!!」


 戦いのさなか、一瞬の隙をつかれてナタリーが変身したのが一つ目の巨人キュクロープス。それに殴られ全身が血だるまになろうともアドラはしっかりと親馬鹿アドラであった。


「さっきも言ってたけど、あの人本当に魔族なの? 確かにおじさんと知り合いみたいだってけど、でも」


「角だよねぇ? たぶんだけど、あの赤毛の姿も変身した姿なんじゃないかなぁ」


「おー?」


「この子もあの赤毛の姿に何の反応もしないしねぇ、きっと元の姿は多少違うんだよぅ」


「くそがッ! やっぱりあのボケのせいなんじゃねえか! ていうかあの役立たずはどこで何してやがんだ!!」


「おじさんなら……、えと、飛ばされて」


「ああ!? 阿呆かあいつは、なに知り合いに殴られてんだよ!」


「そ、そうだね……」


 ママも殴っていたよ。とは、言える雰囲気ではなかった。


「グォォオオオォオオオオ!!」


「とりあえずぅ、解呪はやってみるから囮おねがぁい」


「ぁあ!? ちッ、くそッ!!」


 これみよがしに抱きしめた三人の子どもを見せびらかすディアナにアドラは舌打ち一つで踵を返す。

 巨体だから動きが遅い。なんてことはない。むしろその巨体を支える筋力を得た一撃は速く、重く、なにより広いのだ。


 そんな攻撃であっても、アドラは持ち前の馬鹿力と大剣の頑丈さを頼りに、


「どりゃぁぁぁ、っとぅうぉおおおお!!」


 受け止めきれるわけがない。

 大剣を巧みに操り、巨人の攻撃を止めることなく受け流す。絶妙の角度で大剣を差し込んでいるとはいえ、それでもやはり巨人の攻撃を流すアドラの力は常軌を逸している。


 腕を振るえば全てを薙ぎ払う。

 巨人の持つ巨体とパワーが可能とするそれを、回避するでもなく受け流すなどとは到底考えない。

 元々巨人として生を受けていれば考えることもあるかもしれないが、巨人に変身している者がそこまで細かいことを考えるわけがなかった。その甘さを彼女は狙う。


「うらァッ!!」


「ゴァッガァア!?」


 打ち付けたのは肘。

 それも肘の内側ではなく外側を力任せにぶん殴る。身体の構造上曲がらない方角から来る衝撃は、逃すことが出来ずに巨人の腕を痛めつける。


「作ったぞはやくしろォ!!」


 隙を作れと言ったのは自分であるが、それを本当に作るとかどうなっているんだとドン引きつつも、練り上げた魔力を


「チャマ フナゥフイェ!」


 ディアナは解き放つ。

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