第98話
「なッッ! んでてめぇがここに居るんだ!!」
「も、もももモニカぁああ!? モニカ、もにっ!?」
「おじさん落ち着いてっ!? そんな慌ててあそこに戻おじさぁぁ!?」
「あはは~、なにこれひっどい」
「聞けや、ディアナァ!!」
祭りを楽しむ人の群れ。そこに慌てて戻ったクリスティアンが簡単に弾き飛ばされ宙を舞うなか、怒鳴り散らされながらアドラに胸ぐらを掴まれているディアナは、もう全てが面倒くさいと乾いた笑いをあげながら天を仰ぐのであった。
※※※
「つまり貴女は迷子というわけですわね!」
「かもしれない」
「まあ! 随分と強がりを仰りますわね。素直に認めたほうが素敵ですわよ?」
「おー。じゃあ、モニカはまいご」
「素晴らしいですわ」
人だかりが出来ている露天の隅に生まれたわずかの隙間に少女二人が座り込んでいる。
こんな状況でなければ、道行く人が何人も振り返りそうなほど可憐な容姿を持つ少女が自信満々にもう一人の少女へと話しかけては、話しかけられた少女はその言葉を興味津々で聞いている。
そんな少女の対応に気を良くしたのか、可憐な少女の調子は鰻登りとなって青天井で上り詰めていく。
聞き役となっている少女はモニカであり、自信満々でモニカと一緒に居る少女は当代の聖女であり、この国の王の娘マリナであった。
「ですが御安心ください。わたくしが必ずや貴女を親御様の元へと返してあげますわ!」
「おー、かっこいい」
「そ、そうですか? ……こほん、当然ですわ! 何て言ったってわたくしは、せい、じゃなくて……ええと、その」
「おー?」
ずっと自信満々で話していた彼女が初めて口ごもる。それは、旅の仲間から絶対に他人に口外してはいけないと耳がタコになるほど言われ続けたことであるのだが、そんなことをモニカが知る由も無く。マリナの異変に首をかしげる。
「わたくしは、その、……、せ、正義の味方ですの!」
「……おー……ッ!」
モニカの瞳に好奇心という名の炎が燃え上がる。苦し紛れの言葉であったのだが、モニカの良すぎる反応にこっそりとマリナは胸をなで下ろした。
「せいぎのみかたはなんてなまえ?」
「わたくしですの? わたくしの名は、マリナ、あー……、ただのマリナ! そう、ただのマリナですの!」
「おー、タダノマリナ」
「ただの、は別に言わなくても良いですの」
「おー、じゃあマリナ」
聖女であり、王の娘であるマリナを面と向かって呼び捨てにすることが出来るのは限られた存在。それこそ、両親ぐらいなものであった。
初めて親以外の、それも同世代の子どもに呼び捨てにされるという経験は、彼女にとって新鮮すぎるものであり、どこもむず痒くも心地良いものであった。
それはまた、今まで友人の居なかったモニカにとっても同じことであり、初めての友だちであるレオが出来たとはいえ、ぼっち歴イコール年齢だった彼女にとって、同世代で同性の相手の名を呼ぶ行為に感動を覚えていた。
二人が二人して、異なる理由ではあるが名を呼ぶこと、呼ばれることに喜んでおり、目が合った彼女たちはどこか恥ずかしい感情から照れ隠しで笑い合う。
「マリナはひとり?」
「え? ええと、じ、実は一緒に旅をしている人が居たのですが、ちょっと今居ないと言いますか……その……」
「おー、マリナも迷子」
「ちがッ!? 違いますの! 迷子はわたくしではなく向こうですの! 向こうが勝手に人波に揉まれてどこかへ行ってしまったわけで、わたくしのほうが彼女を探している最中ですの!!」
パニック気味に早口でまくし立てる彼女の様子に、モニカは変わらずじーっと見つめたまま、
「すなおになったほうがすてき」
「はぅ!?」
ついさきほどの自身の発言をそっくりそのまま返されて、何も言えなくなったマリナはその場に撃沈してしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます