街からの脱出
第73話
「うわぁぁぁ!」
「よ、避けぎゃぁぁ!」
アドラが投げつけたベッドが複数の兵士をまとめてなぎ倒す。どうにかクリスティアンと協力し、通路を超えベッドがあった部屋にまでたどり着くことに成功した彼女たちではあるものの、地上へと通じる通路からはまだまだ多くの兵士がやってきている。
「ああ、もう! 鬱陶しいな!」
「さっきの魔道具でどうにか出来ないのかぃ?」
「ああ、あれ? ん」
「うん? ……あ、へ、へえ……」
ぐい、と差し出された彼女の手には見事にボロボロになった指輪。ただでさえ頑丈な魔道具のなかでもとりわけ戦闘用の魔道具は頑丈に出来ている。それを破壊するなんていったい君はどれだけの力を込めたんだい? なんて、自分の命に関わる質問をするほど彼はおろかではなかった。
「ママ! ママ!」
「うん? どうかしたの、レオ」
「あっちの部屋にいっぱい捕まっている子がいたよ! あのままにしておけないよ!」
「モニカも、そうおもう」
「……そうねえ」
「その先に長い通路があるんだけど、その向こうがおそらくは下水に繋がっている。ここで無理やり地上に出るよりは助かる可能性があるかもしれない」
「……あそこ、モニカきらい」
「僕も嫌だけど、我慢していかなきゃ!」
「…………レオがいうならがまんする」
好機とばかしに飛び込んでくる兵士を見ずにその腹に回し蹴りを喰らわせて、兵士が手放した槍を固まっている兵士へと投げつける。
そんな行動を思案しながら片手間に行ったアドラは、仕方ないかとため息を零した。
「ゴーレム使ってこの部屋と牢屋の間の通路を封鎖してろ」
「な、何秒くらい」
「一分持たせろ、馬鹿野郎」
「いっ!? ちょ、そッ! 無茶なわぁお!?」
「レオ、モニカ。行くよ」
子ども達を小脇に抱え、牢屋と通じる扉の向こうへと飛び込んでいく。兵士の攻撃を必死に回避しながらそのあとをクリスティアンが続き、呪文を唱えて二体目になるゴーレムを生み出した。
「た、頼むよゴーレム!」
「ごー!」
「お前の父親はもうちょっと頼りがいがあるようにはなれないのか」
「おー、なかなかにむずかしい?」
本人が聞けば泣き出しそうな評価を娘にまで下されてはいるものの、なだれ込もうとする兵士を、ゴーレムと一緒になってクリスティアンがせき止める。
その間に目の前の扉を蹴り破れば、さきほど見たままの牢屋の姿。起こり出している騒ぎに興味を示している者も居るには居るが、ほとんどが死んだ瞳のまま騒ぎに興味を示す様子もない。
「二人とも。片っ端から開けていきなさい」
壁にかかった鍵束を子ども達に持たせ、床に降ろす。
二人は強く頷くと、一緒に左側の牢屋をどんどんと開けていった。
「……」
そんな二人の行動に、それでも興味を示さない牢屋の子ども達を見て、
「うらァ!!」
右側の牢屋の鉄柵をアドラはその足で破壊した。
「ひぃぃ!?」
「うわっぁ!」
「こ、殺さないで! 痛くしないで!!」
突然の行動に、いままで興味を示さなかった子ども達全員が恐怖で悲鳴をあげ逃げまどう。そんな内に一人を無造作に掴み上げた彼女は、
「一度だけ言うぞ。耳かっぽじってよく聞きな」
掴んだ子供に言うようで、牢屋全体に届くような声量で。
「生きてぇ奴は、今すぐあたしらに付いてきなァ!!」
「んぎゃァ!?」
乱暴に掴んだ子どもを檻の外に投げ飛ばし、次々に他の子どもも掴んでは放り出していく。
混乱している子、泣き叫ぶ子、怪我に苦しんでいる子、どんな状況かはお構いなしにアドラは子供を放り出し続けていた。
「みんなァ! こっち! こっちだよ! はやく僕たちについてきて!」
「おー、いそぐ」
どうしたら良いか分からない子供たちに、鍵を開け終えたレオが一生懸命に声を張る。彼と続くモニカの声に、とりあえずといった装いでよろよろと牢屋の子ども達は一歩、また一歩と歩き出し始めた。
「歩けねえ奴がいるだろうが! 腕ぇ残ってるやつは手ぇ貸せや!!」
「ひぃ!」
「ごめんなさい!」
「ぶたないでッ」
最後に牢屋の隅で気絶していた少年を拾い上げたアドラの罵声が飛べば、委縮しながらもアドラの命令に子ども達は従い、動けない子を補助しながら廊下を奥へと進んで行く。
「ァ、ァアドラぁぁアアア!!」
「チッ」
悲鳴をあげながら文字通り飛び込んできたクリスティアンのあとを追うように、灼熱の炎が入り口付近を焼き焦がした。
「ご、ごめん! 魔法部隊まで突入してきて!! もう僕一人じゃ無理なんだけどッ」
「伏せろ!」
「え? ひぃぃぃい!!」
彼女が何をするか分かって、ではなく。ただ反射的にしゃがみこめば彼のまさに頭上を何かが通り過ぎていく。
それは牢屋の檻だったもの。彼女がむしり取った鉄の棒がものすごい速さで飛んでいき、通路に居た複数の兵士の頭をまるで団子のように貫通させていく。
「いまチッって言ったよ!? 間違いなく少し掠めたんだけどォ!?」
「おしかったな」
「どういう意味ィ!? って、おっとうわ!? あれ、この子……」
ぽい、と投げつけられたのはさきほど彼女が拾い上げた一人の少年。
「レオとモニカが先導して先に行ってる。はやくお前も追いつけ」
「え、でも……いや、うん、わかった!」
バキボキとその辺の檻をまるで雑草のようにむしり取る彼女に、これ以上ここに居たら自分のほうが危ないと、そして、子ども達だけで先を行かせるわけにもいかないと判断した彼は、投げつけられた少年をしっかり抱きかかえて奥へと駆けて行った。
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