第72話
一個目の指輪はすでに壊れていた。渾身の一撃を塔にぶち込んだその時に、甲高い音とともにひび割れた指輪。
カルロス以外が使ったからなのか、それとも耐久力の限界を超える力で殴ってしまったからなのか。それとも別の要因か。
それなりに便利な魔道具なのでこれからも確保しておきたいと思ったが、それでも今目の前のことを成し遂げるほうが優先だと、転がっていたカルロスの遺体からもう一つの指輪を奪い、彼女は自分の右手に装着する。
視界の端で、部屋へとなだれ込もうとする兵士をクリスティアンが生み出した鉄のゴーレムと彼の魔法が妨害しているのが見て取れた。
レオもまた、モニカを守るために彼女の前に立っていた。
「さっさと終わらせるか」
バチバチと火花をあげる塔の傍。さきほど殴った時とまったく同じ場所に立った彼女は、数秒息を整えて、
「だらっしゃぁぁああァアアアア!!」
二度目の大爆発を引き起こした。
※※※
――ぴきッ! ぴきぴきッ!
爆発の煙に包まれながら、アドラは音を聞く。それはまるで寒い冬の日の朝、凍った池の氷にヒビが入っていくような音のようである。
煙を掻き分けて出て行けば、さきほどまでは通路のほうを真剣に睨みつけていたレオが、塔のほうを少し茫然と、だが嬉しそうにも見える顔で見つめていた。
「ママッ!」
煙から出てきた母親に、彼は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうって! みんながありがとうってママに言っているよ!」
「おー?」
彼の隣で首をこてん、とさせているモニカ同様にアドラにもそんな声は聞こえない。それでも、自分の息子が嘘をついているわけがないと、
「そう。……ま、こんな形でしか助けれなくて、悪かったな」
小さな声で、呟いた。
「アドラァ!! ちょっと悪いんだけど、助けてくれないかなァ!!」
「……はぁ」
似合わなくも感傷に浸っていた彼女だったが、クリスティアンの叫びに現実へと連れ戻されていく。
魔力温存のためか、それとも室内だからか大魔法は使わない彼は、ゴーレムと協力しながら必死で敵兵を食い止めていた。
「その程度一人でなんとか出来ねえのか!!」
「だから私は元々戦闘タイプじゃないんだってぇ!!」
泣き言を漏らす程度には心を開き始めたとみるべきか、ただ面倒事を押し付けようとしているのか。どちらにせよ、ここを出たらもっと厳しくする必要があるなと彼が聞けばそれこそ泣き出しそうなことを考えながら、彼女は群がり始めている敵兵に向けて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます