第64話
「二人とも、転ばないように気をつけて……ッ」
「はっ、はッ!」
魔法で光らせた杖の先端を手で包み込むようにして、光に指向性を持たせながらあたかも懐中電灯のようにして前だけを照らしてクリスティアンが広い廊下の先頭を早足で駆けていく。
そのすぐ後ろをお互いぎゅって手を繋いだ子ども達が付いてくる。さきほどまでの余裕がどこへやら、不安そうなモニカとその不安を取り除こうとしているのか少し無理に笑顔を浮かべているレオ。
彼らが逃げる要因となった二人の見知らぬ男の声は、まだ後ろから聞こえており反響具合からこちらへ向かっているのが分かる。
もっとも早足のクリスティアン達とは異なり、向こう側は歩いて近づいているようであり距離としては差が大きくなってはいる。
「おじさん。この先って何があるの?」
「……、すまない、私にも分からな、おっと、ここから下り坂になっているみたいだ、気をつけてね」
「うん。モニカちゃん、手を離したら駄目だよ?」
「……おー」
魔法の光だけを頼りに彼らはどんどんと通路の先を行く。時折壁になにやら魔法具のようなものが見えてしまい、クリスティアンの中に思わず調べてみたいという欲求が生まれるものの、状況がそれを許さない。
『……やっぱり誰も居ないじゃないか』
『おかしいですね……、確かに声がしたんですけど』
『一度戻って子どもの数を数えれば良いだろう。それで数が合わないなら上に応援を呼ぶぞ』
『は、はい!』
クリスティアンのほうへと歩いてきていた足音が離れていく。聞こえてきた会話内容からしても彼らが元の場所へ戻っていったことは明白であり、ようやく彼は少し胸をなで下ろした。
「向こうの人たち、どこかへ行っちゃった?」
「みたい、だね。良かったよ……」
「おー、かてない?」
「勝てる勝てないというより、騒ぎを起こして増援が来られるとどうしようもなくなってしまうからね」
「なるほど」
本当に分かっているのかは分からないが、安心している父の様子に彼女のなかの不安もなくなっていく。
これからどうするか少しばかし逡巡するも、元来た道を戻ることはせずに彼らはそのまま歩を進めていく。
下り坂となっている廊下を歩き続けていけば、空気に少しばかしの湿気が含み始めていく。地下ということも相まってかなり温度は低い。
「この道どこまで続くのかなぁ?」
「おなかすいてきた」
「ごめんね、もう少しだけ我慢して。……そうだねぇ、地下に向かっているし方角からすれば下水道に出そうではあるけど」
「え。今僕たちがどの方角向いているか分かるの? あんな穴を落ちたのに」
「うん、だいたい……だけどね」
「すごいや!」
「そ、そうかな。そう言われると照れるね……」
モニカとの二人旅になってそれなりの時間は経過しており、かつ、アドラが素直に褒めることなど滅多にあるわけがなかったため、キラキラと尊敬の瞳で自分を褒めてくるレオの言葉にクリスティアンは嬉しさからの困った顔をしてしまう。
「レオくんのそういう所は、なんというか……、とても、うん、素敵だよね」
「そういう所?」
「おー?」
「あはは。なんだろうか、うん……まあ、説明が難しい所だよね」
勝手に納得している彼に、子ども達二人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。シンクロしている彼らの動きがまた愛らしくクリスティアンは更に笑ってしまえば、それが更に二人のクエスチョンマークを増やしてしまうのだった。
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