第57話
「明日行くぞ」
「うん」
ひたすら一日中街を歩き回った四人は、食事を済ませて宿へ戻っていた。子ども達は昼間の疲れですでに夢のなか。
アドラとクリスティアンは広げた地図を見ながら、明日の作戦を練っていく。
「今日聞いた感じだと、何かあるとしたら丘にある教会、かな」
「だろうな。ちょうど地図上で見りゃ怪しんでくださいとばかりに丘のど真ん中だ」
「確か、武器の携帯は禁止されているんだっけ」
「ああ、ここだけ入る前に検査されるらしい。……万が一で聞くが、お前遠隔会話の魔法が使えたりだとか魔法具持ってたりとかあるか」
「さ、すがにそんなに高度な魔法は使えないし、高価な道具も……」
「だよな」
アドラは窓のカーテンを開ける。入り込む明かりは時間帯には合うはずのない光量であった。
「認識阻害にどこまで自信が持てる」
「……、普通の教会なら問題はないと思う。でも」
「あそこが普通じゃない場合は、それなりの奴がいるわな」
彼女はカーテンを閉めた手で、自身の髪をかきむしりながら、
「教会のなかにはあたしだけで行くわ」
「…………」
「不服そうだな」
「そりゃあね」
「勘違いするなよ。教会が一番怪しいってだけで、丘自体になにかある可能性はまだいくらでも残っているんだ」
「うん」
「そっちはお前が当たれ。あたしが教会調べている間に、丘を全部見ておかねえとぶん殴るぞ」
「……え、そ、それはちょっと範囲が広すぎるような」
分かり易く慌て出す彼に、彼女は楽しそうに悪い笑みを浮かべる。
そんな二人の様子は、仲の良い仲間のようであるのだが、それを指摘する者は居らず、居たとしてもアドラを前にそれを言う勇気があるだろうか。
「認識阻害に期待出来ない以上、レオも連れていけねえ」
「分かっている。命に替えても彼のことは私が守ってみせるよ」
「んじゃ、もしもの時の落ち合い場所決めていくぞ」
地図を見ながら、二人の遅くまで話しあうのであった。
※※※
「今日はあそこの丘に行くんだよね!」
「おー、わくわくする」
子ども達が元気いっぱいに階段を降りてくる。
その後ろから降りてくるアドラは、そんな二人の様子に無意識に笑みを浮かべてしまう。
「元気良いのは良いけど、ちゃんと気をつけるのよ」
「うん! 分かっているよ!」
「ばっちり」
とても良い返事をする二人は息がぴったりで。少し遠目で見れば仲の良い兄妹のようでもあった。
「なあ、姉ちゃん」
「あ?」
話しかけてきたのは、宿の店主。
相変わらずの無愛想な面をしているのだが、その声にはどこか不安が宿っていた。
「なんだよ」
「……、昨日街でチコを見なかったか」
「あのガキを? いや、見てねえな」
「そうか……、変なこと聞いて悪かったな」
「居ないのか」
「……このあたりじゃ、よくある話だ」
それ以上は話す気がないのか、店主はまるで逃げるように店の奥へと入っていってしまった。
「なにかあったのかい?」
遅れて降りてきたクリスティアンが、不思議な顔で聞いてくる。
「この宿に案内してくれたガキが見あたらねえってよ」
「何かあったのかな」
「さあな。路地のガキなんざいつどこで何があっても不思議じゃねえからな」
「ママ? チコくんに何かあったの?」
「かもしれないって」
「探してあげようよ!」
「…………そうね。もしかしたら丘のほうへ行っているかもしれないものね」
「うん!」
「かくれんぼするのはじめて」
「別にかくれんぼしているわけじゃないと思うよ?」
「おー?」
いまいちよく分かっていないのか、モニカはこてんと首をかしげていた。
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