第53話
「モニカは、いまもうれつにかんどうしている」
「モニカちゃん、これも美味しいよ」
「モニカ、ここにすむ」
道中確保した皮や牙を換金した彼らは、大通りから一本外れた、それでも十分大きな通りに面している店で遅めの昼食をとっていた。
モニカのリクエストに応えて、肉が美味しそうな店に入ったのだが、それだけでスープになりそうなほど肉汁が零れ落ちていく巨大な固まり肉のステーキに彼女のテンションが最高潮にあがりきっていた。
「お肉ばかりではなく、野菜も食べるんだよ」
「むずかしい」
「ちゃんと食べなさい」
嫌がる娘の取り皿にサラダをどばどば入れていく。
「それで、このあとは?」
「あ? あむ……。地図を買って、魔道具も見て……、あとは……少し武器とかも見たいが、そこまで金足りるかねぇ」
大きめにカットした肉を健康な歯で食いちぎり、咀嚼する。
実に性格に合ったワイルドな食べ方をするアドラである。
「なにか買うのかい?」
「この子たちのな」
まだレオには少し固かったか。ステーキに苦戦する彼の皿を取り、小さく切り分けながら彼女は質問に答える。
「武器はともかく、動きやすくて軽い防具とかありゃ良い」
「ああ、そういうことならモニカのは大丈夫だよ」
「うん?」
「この子が来ているローブはそれなりの品だからね」
「ああ、やっぱり魔化品か、それ。……で、あんたのは?」
「ただの、ローブです……」
「てめぇのもかっぱらってこいよ、せめて」
「時間がなくて、と言いたいけれど、普通に持ってなくて……」
「どこの世界でも貧乏は嫌だねぇ、なあ?」
「うん?」
どことなしに、彼女は言葉を投げかける。
すると、
「うん。お姉さんの言う通りだよ」
「うわッ!?」
「あれ? あ、さっきの!」
「うまうま」
誰も居なかったはずの隣の席に、この店で一番安いこま切れ肉の炒め物を食べる少年が居た。
さきほど、宿まで案内してくれた少年だった。
「すごいね、おいらの気配読まれることあんまりないんだけど」
「世の中にゃ自分よりすごいやつなんて掃いて捨てるほどいるもんだよ」
「はは、そうだね。うん、その通りだ」
アドラは彼の皿に分厚いステーキを入れながら、
「つーわけで、案内頼むわ」
「任せてー」
にっこりと少年は、分厚いステーキにかぶりついた。
※※※
「はいはい、ここだよ」
案内されたのは、やはり裏路地に店を出す小さなお店。トンカンと金づちを振るう音が聞こえるので、おそらくではあるが店として機能はしているのだろう。
「腕は」
「性格がね」
「上場だ」
す、と消えていく少年にレオとモニカが手を振って、そんな二人の様子に優しい笑みを浮かべながら、アドラは店の扉へと手を伸ばし、
「ざけんなァ!!」
蹴り飛ばした。
「えええええ!?」
「マ、ママ!?」
「おー、わいるど」
アドラの蹴りに、木製の扉が耐えきれるはずがなく店内へと弾丸の如き速さで飛んでいく。
「ぎゃぁぁ!!」
店内で悲鳴があがるのをお構いなしに、優しい笑みはどこへやら不機嫌な顔になったアドラはのっしのっしと店内へと足を踏み入れていく。
「え、ちょッ! あ、アドラ!? きみ、え、何をしているんだぃ!?」
「ご機嫌な性格してやがるじゃねえか、出てこいや店主!!」
慌てて彼女を止めようとするクリスティアンを無視して彼女は吠える。
そして、
――ガギンッ!
「うわッ!?」
アドラが背中の大剣を構えたと思えば、店の奥から飛んできた何かとぶつかって鈍い音をあげる。
がらん、と床に転がったそれはダガーなのであるのだが、刃が床についた瞬間しゅうしゅうと煙をあげて床が溶けだしていく。
「毒か」
「毒ぅ!?」
「えっえっえっ、今のを防ぐとはお前さん、なかなかやるね」
店の奥から出てきたのは、腰の曲がり切った小さなお婆さんだった。
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