第52話


 更に歩き続けること三日間目の昼。太陽が真上を通る頃、彼らは目的の街へとたどり着いた。

 眠らずの丘を囲むように造られた街『ラジュルタン』


 女神様が降臨したと言われる眠らずの丘。夜が来ないと言われるその丘を囲むその街は、多くの観光客にあふれた活気あふれる観光、商業そして信仰の街だ。


 人が集まればそれだけトラブルも発生するため、四つしかない出入口のチェックは厳重なものである、と言われてはいるものの。


「どこにも屑は居るってな」


 チェックをするのは基本的には兵士などの役割を持つものが多いのだが、彼らの役割は兵士であって、真面目な兵士ではない。

 基本は人を襲わず、普通の村人のように暮らす山賊が居るように、金に目がくらんだ兵士などは探せばどこかには居るものである。


「へへ……、通ってよし!!」


「ありがとよ」


 全ての悪人が、それと分かる恰好をしているわけがなく。どこからどう見ても真面目な兵士としか見えない好青年の不正好意でアドラ達は問題なく街のなかへと入ることが出来た。


 四人とも、クリスティアンの魔法で見た目が変わっているのだが、かけあっている者同士ではその違いが分からないらしく、自分たちからすれば何も変わっていないというのが少しだけ不安にもなる。


「おー……、おー、おー……ッ」


「うわぁ……ッ!」


 門をくぐればそこは、

 なんて言葉を言いたくなるほどに、塀の中は派手やかな街並みであった。円形の街の中央には眠らずの丘が、そして東西南北の門から中央へと伸びる大通りは馬車が五台横に並んでも余裕で通れるのではないかと思えるほどに広く、そしてそれだけ広い通路が覆いつくすほどに大勢の人と店で溢れかえっていた。


「レオ、ぼぉっとしていると危ないわよ」


「モニカも、はい、手をつなごうね」


 灯りに近づく虫のようにふらふらしていた子供たちを親二人が捕まえる。


「とりあえず、宿を取るぞ」


「うん、街にまで来て野宿なんて笑えないからね」


 そう言ったアドラは、いきなり大通りを外れて怪しい小道のほうへと足を進めていく。


「ちょ、ちょっと? どこへ行くんだい?」


「黙ってついてこい、だいたいこういう街にはよ」


「……なにか探し物?」


「こういう奴らが生きてる」


 道を逸れて少し入った途端に、ぼろぼろのみすぼらしい服を着た少年が話しかけてきた。レオより、少し幼いだろうか。


「宿を探してる。詮索してこず、それでいて防犯がある程度あれば良い」


「部屋は?」


「寝れるならそこまで気にしねえ、ノミはごめんだ」


 そしてアドラは、その少年に何かを握らせる。

 手のなかのものを数えた少年は、にまぁ、と笑みをこぼし


「これだけもらっちゃしょうもないところは教えれないね、いいよ、ついといで」


 建物の影に溶け込むように移動する少年を、アドラは落ち着いて、残り三人は慌てて追いかけた。



 ※※※



「一部屋、四人。うち、子ども二だ」


「飯は」


「外で食う」


「前払いだ」


 裏路地にある小さな宿屋。

 紹介されなくては、紹介されたとしても入りたくない風貌のその宿へと少年に案内される。

 案内が終了すると、またよろしく、と彼は闇に消えていった。


 左腕のない店主が営む宿で、慣れた顔でアドラは部屋をとっていく。金を渡し、鍵を預かった彼女は、きょろきょろと店内を見渡していたクリスティアンの後頭部に一発ぶち込んでから階段を昇っていく。


 とった部屋は、大きめのベッドが二つ備わっている部屋で、シャワー等はなし。

 中に入ったアドラは、まず部屋の中を物色していく。チェストやベッドの下は当然として壁や床、そして天井や窓の具合も確かめる。


「へえ……」


「なにかあったのかい?」


「あのガキ、良いとこ教えてくれやがる。ボロいくせに案外どうして、防音含めてしっかりしてるぞ、ここ」


「普通の通りにある宿じゃ駄目だったのかい?」


「駄目ってわけじゃねえが、ああいうところのは下手踏むと危ないところもあるからな。ある程度を目指すと金もかかる。あたしらみたいなのは、こういうところのほうが結局は安全で安上がりなんだよ」


「なるほど」


「レオ、モニカも。ちょっと休憩したら街に出るよ」


「お買い物? 騎獣札を買うんだよね!」


「おー、おにく」


 我先にとベッドに飛び込んでいた子供たちは、街に出れるとおおはしゃぎ。


「地図が欲しいが、金足りると良いんだが」


「皮とかも換金しないとね」


 街に着いたとはいえやることは多い。

 むしろここからが本番でもある。肩を自分で揉むアドラは、これからのことを考えて、まだしばらく酒は飲めないなと心の中だけでため息をついた。


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