第45話


 目を覚ますと、隣には大好きな母の姿があった。


 レオが目を覚ましたのは、真夜中のことである。村も一部の見張りを除いて皆寝入っており、とても静かであった。

 しばらく茫然と天井を眺めていた彼は、少しずつ意識が途切れる前のことを思い出していき、


「ッ! ~~~ッ!?」


 勢いよく起き上がろうとし、左腕に走る激痛で身体を丸めて固まってしまった。

 ただ、痛いということは生きているということ。

 痛みを堪えながら、その事実に、そして隣で眠る母の姿になんともいえない安堵を感じていた。


 普段のアドラは、レオが目を覚ますといつだろうとすぐに彼女も目を覚まして何かあったかと尋ねるのだが、今日の彼女は目を覚ます素振りを見せない。

 いくら彼女といえど、鬼蜘蛛オグリージャとの戦いにかかった体力は莫大なものであり、それを補うために肉体が睡眠を欲しているのである。


 レオ自身、対峙したからこそ鬼蜘蛛オグリージャの怖さがよく分かっていた。それも、たった五匹に手間取っていた自分とは違い、母はその数倍数十倍、いやそれよりはるかに多くの相手を戦っていたのだ。

 そのことに、誇らしくも悔しくて、そして、疲れている母を起こすまいと静かに寝床から抜け出した。



 なにか理由があったわけではないが、強いて言うならば夜風に当たりたいと彼は屋敷の外へと出て行く。

 見張りの人はいたけれど、見つかれば騒ぎになるかとこっそり見つからないように移動していけば、ハコブの見た目には似合わない小さく可愛い花が咲き誇る庭を見つけた。

 月明かりに照らされて、風にたなびく花の姿はとても美しかったのだが、レオはそんな花以上に気になる存在に目を奪われていた。


「…………」


 深くかぶった帽子が零れ落ちないように両手で抑えながら、天に浮かぶ月を見上げる少女。

 夜風に揺れる彼女の髪が、月明かりを反射してキラキラと光り輝き、まるで妖精がそこに居るようでもあった。


「モニカちゃん」


「ッ!」


 声を掛ければ、彼女はこけてしまいそうなほど大きく慌ててしまう。まさか、誰かいるとは思っていなかったためか、レオが声を掛けてしまったからか。


「良かった。モニカちゃんも大丈夫だったんだね」


 後者であれば悲しいけれど、だからこそ彼は優しく楽しく声を出す。

 自分は無害だと彼女に伝えるために。


「レオ……、あの、腕……」


「うん、まだ痛いけど……、でももう大丈夫だよ!」


 さすがにほら! と動かすなんて馬鹿な真似はしない。そんなことすれば激痛が走ってしまうから。余計に彼女を心配させてしまうかねないから。


「……おー」


 小さく呟く彼女は、ほっとしたようであった。


「ねえ、モニカちゃん」


「…………おー……」


「どうして、僕がモニカちゃんを殺すと思ったのか。……聞いても良いかな」


「…………」


 聞かないほうが良いのかもしれないけれど、それでもこれからも旅を続けるにあたって聞かないわけにはいかない内容。

 また逃げられないようにだけは注意しながら、彼は質問を投げかける。


 俯いてしまった彼女は、しばらくそのままであったけれど、彼が辛抱強く待ち続けてしまうので、とうとう根気負けしてしまう。


「モニカが、まおーで……、レオが、ゆうしゃ、……だから」


「……どういうこと?」


「ゆうしゃ、は……、まおーをころすって、そういうやくわりだって……、みんないうから」


「え……」


 聞いたことがなかった。

 母が言う、勇者の役割にそんなものは含まれていなかった。


「でも、レオはモニカをたすけてくれた……、どうして?」


 恐々と、だけれど、しっかりと彼女はレオの瞳を覗き込む。帽子で隠れた彼女の瞳は少しだけ見えにくく隠れてしまっているけれど、まっすぐと彼女の視線はレオを捉えていた。


「どうして、レオはモニカをたすけてくれたの? レオは、ゆうしゃだから、いつかは…………モニカをころすの?」


 少しだけ、彼女の身体は震えていた。

 目の前に居る彼が、自分の初めてできた友達なのか。それとも、周りの大人が言うとおり、自分を殺す存在であるのかどうか。


 彼女が知りたかった答えを、

 レオは、

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