第28話
「がっはっは! バカ息子共がボコボコにされたからどこの阿呆の仕業だと思ったら、お前だったかアドラ!」
「部下の管理ぐらいちゃんとやれよ、クソボケ」
「山賊なんだ、略奪行為ぐらいは大目に見てくれても良いだろう?」
「相手の力量を見て襲えって言ってんだよ」
一見すると普通の村に見えたアドラの村とは異なり、はっきりと武装集団であることが見て取れる。
見るからに堅気ではない村人たちにじろじろと見られながら、他と比べると少しではあるが豪華な建物へと案内される。
レオとモニカのちびっ子コンビを別部屋に残し、大人組は建物のなかで一番広い部屋へと案内され、待つこと少し。やってきたのは、毛むくじゃらの大男であった。厳めしい顔と伸び放題の髭、なにより筋肉粒々の巨体は気の弱い者であれば会うだけで気絶しそうなほどにおっかない。
緊張で身体が強張るクリスティアンとは裏腹に、アドラを見た瞬間その大男は大笑いし、彼らを歓迎したのであった。
「知り合い、なのかい」
口が悪いが親し気に話す二人の様子に、クリスティアンがアドラへと問いかける。
「山をはさんでいるからめったに交流は取らねえけど、それでも近くの村だからな。多少は知っている」
「おいおい、アドラァ!」
大きく口を開けて笑いながら、大男が彼女の言葉を遮る。
「冷てぇこと言うんじゃねえよ! 近くの村って前に、俺たちゃ昔に一緒の山賊の仲間として暮らした仲じゃねえか!」
「半年だけだろうが」
「ああ! だが、俺の人生のなかで間違いなく一番スリリングな半年だった!」
あほくさい、とため息を付いてそっぽを向いてしまう彼女にますます大男は上機嫌に笑い声をあげる。
「それにしても……、随分とまあ男の趣味が変わったんだな、おめえ」
「は?」
「いや、そのひょろっこいの。お前のコレだろ?」
「ひょろ……」
「違ぇよ、クソボケ」
顔を紅くして否定すればまだ可愛げがあるのだろうが、大男の言葉を零下の瞳で淡々と否定する。
「あ? そうなのか? ……ああ、まだその段階じゃ」
「ぶん殴ろうか?」
「待て! まじで力を込めるのは止めろ!? 分かった! 俺が悪かった!!」
熊のような大男が慌てふためく様子は不似合いで、どれだけ彼女は恐れられているのだろうかと知れば知るほどクリスティアンはアドラのことが怖くなっていく。
「あの、すいません御挨拶もせずに。私はクリスティアンと言います。向こうの部屋で待機している女の子、モニカの父親でして、今はわけあってアドラさんと一緒に旅をしているのです」
握られるアドラの拳から逃げるためか、大男はクリスティアンの自己紹介にとても嬉しそうに反応する。
「おお、こいつはどうも丁寧に! 俺の名はハコブ。この辺じゃちょいとは名の売れた山賊よォ!」
恐ろしい見た目とは裏腹に人なつっこい笑顔で手を伸ばすハコブに、クリスティアンも内心ほっとして彼の手を握る。
「ハコブさん、ですか。どうぞよろ痛たたたたたッ!?」
「あ? おいおい、そんなに力込めてねえぞ? 本当にひょろっこいな、お前」
「アホか、お前の馬鹿力で握られたら誰でも痛いに決まってんだろうが」
「お前にだけは言われたくねえぞ、俺も」
「あ?」
「いッ! いいから手をッ! 手をはなし、痛ッッ!!」
「おっと、悪い悪い」
解放されたクリスティアンの手は、真っ赤に腫れ上がってしまっていた。
熱を持ってしまった己の手に涙目で息を吹きかける彼を尻目に、アドラがハコブへと向き直る。
クリスティアンの行動を楽しそうに笑っていたハコブも、彼女の雰囲気が真剣なものへと変わったのを察知して、真剣な表情をする。
「旅、と言ったな。……アドラ、お前、自分の村はどうした」
「国の兵士が攻めてきたよ」
「…………」
「死人は出てねえし誰も捕まってねえよ、多分だけどな」
「…………、国に戦争ふっかける気なら、元仲間として止めるぞ」
「あたしがそんな馬鹿なことすると思うのかい」
「どうだか。お前は昔からどこか馬鹿だったからな」
「はんッ」
「実は、」
ハコブの視線が、アドラからクリスティアンへと移る。真剣なまなざしの大男の姿はただただ恐ろしいものではあるが、それでも引くことのない彼の様子はさきほどまで手を痛めて涙を流していた男とは思えないほど勇ましかった。
「眠らずの丘に行きたいのです」
「眠らずの? それなら普通に行けば……、ああ、そうか」
自分の言葉の途中で気がついて、ハコブは目の前の男をゆっくり観察する。今のクリスティアンは認識阻害の魔法で角の跡が見えることはないはずだが、それでも彼の中で緊張は走る。
「お前……、その見た目で札付きかい。移動に制限がかかるなんざどんなヤバイことをしでかしたんだ」
「それは……」
「ああ、いや、悪い。話したくねえことは誰にでもあるもんだ。無理に聞き出したいわけじゃねえ」
「多少の変装ならあたしも出来るけど、確実性はねえ。ハコブ、お前ならなにかしらのコネ、持っているんじゃねえか?」
「持ってねえ。と言えば嘘にはなるが……」
「頼む、力を貸してくれ」
「お願いします、ハコブさん」
さ、と頭を下げたアドラに続き、クリスティアンも丁寧に頭を下げる。
そんな二人をハコブは困ったように見ていたのだが、
「…………分かった」
「助かる」
「ありがとうございますッ!」
「ただ、条件がある」
顔を上げた二人に、ハコブはニヤっと悪い笑みを浮かべた。
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