鬼蜘蛛

第27話


「おうおうおうおう!」

「なぁに我が物顔で通ろうとしてんだゴラァ!」

「俺らが誰だか分かってんのかオラァ!」


「…………」


「ア、アドラ……? あの、お、穏便に……」


 丸三日ほどかけ険しい山を越えたアドラ達四人は、すぐに目的地である眠らずの丘へは向かわず、近くにあるという山賊の村を目指していた。

 荒れ果てた獣道から多少ではあるが人の手が加わった道へと足を踏み入れた途端、彼らを待ちわびていたのはこれでもかと山賊ルックを体現したまだ若い青年三人衆三馬鹿であった。


 あまりにあまりにもまさにな見た目と態度と言動に、アドラの顔から表情が消えていくのをむしろクリスティアンが心配するほどである。勿論、三人衆の身の心配だ。


「へっへっへ、兄貴! こいつら恐怖で何も言えないみたいですぜ!」

「なぁに俺らもおにじゃねえ! 金目の物全部くれるってんなら怪我ァせずに通してやるぜ」

「うぅん……、若い女も居ねえし……、外れかなァ」


「お兄さん達!」


「「「あん?」」」


 自分たちの命がどんどん削れているのも知らずに彼らが勝手なことを言っていると、一歩前に飛び出したレオがずびっ! と指を突付ける。


「人の物を取ったら駄目なんだよ!」


「「「…………」」」


「悪いことしているといつか女神さまからこら! って言われるんだよ!」


 小さな子どもの発言に、最初はぽかんとしていた三人衆だったが、思わず一人が噴き出せば、釣られて残り二人も噴き出して、最終的には大笑いへと発展していった。


「ど、どうして笑うのさ!」


「あひゃひゃひゃっひゃっ! こ、こら!? こらって言われるのかッ!」

「ひー! そりゃ怖い、ああ、おっかないッ!」

「そ、そうだな坊主! 悪いことしちゃ駄目だな!!」


「そ……、そうなんだよ! だからそういうことしちゃ駄目なんだよ!」


「レオくん、ちょっと下がっていよう。あの、いや、君というか彼らがどんどん危なくなっていくから、ね?」


「おじさんは黙ってて!」


「あの、せめてお兄さん……」


「おー、おじさん?」


「パパと言いなさい!」


「あー、腹痛ぇ……、いいか、坊主。そういう悪いことして生きていくのが俺ら山賊のやくわ、ぁ?」


 ガシッ

 レオの頭を軽く撫でようとしたのか、三人衆の一人が伸ばして腕はレオに届く前に止められる。無表情のアドラの手によって。


「なんだおばはん」


「クリスティアン」


「は、はいッ!!」


「ちょっと向こうで休憩していててくれ、レオ達連れて」


「ええと、お、穏便に……ね……」


「すぐ終わるから」


 子どもたちを抱え、せめて彼らには見えない場所まで行こうとダッシュする。願わくば、戻ってきたときミンチ肉が出来ていないと良いな、と天を仰ぐクリスティアンでしりました。



 ※※※



「申し訳ございませんでした!!」

「失礼なことをして生きていてすいません!!」

「もう悪いことしません! もうしません! 笑ったこともごめんなさいぃぃい!」


「良かった、生きてた……」


「あ?」


 自然豊かな美しい山の中には不似合いな汚い男共の悲鳴が止み終わったあと、クリスティアン達が元の場所に戻ってみると、竜巻にでも巻き込まれたのかと思うほどに原形を失った三人衆が土下座しているところだった。


「殺してしまうかと思って」


「阿保か、ンなことしたらこいつらの頭との話がこじれるだろうが」


「ああ、彼らが可哀そうだからという理由ではないんだね……」


「坊ちゃん! 笑ってすいませんでした!」

「もうしません! もうしません! もうしません! もうしません!」

「許してください、すいません、ごめんなさい、生きていてすいません!!」


 レオの姿を確認した三人衆は、彼に向って見事なスライディング土下座をぶちかます。それはそれは立派な土下座であった。


「え、ええと……、分かってくれたら良いんだよ! みんな仲良くしようね!」


「ぼ、坊ちゃん……!」

「なんてお優しいんだ……!」

「あの悪魔の子どもとは思えねえ……!」


「すごいこと言われているけど、何したの」


「語り合っただけだ」


 拳で。

 彼女は発言していないのに聞こえてくる謎の文字ことを黙殺することにした。クリスティアンも自分の命は惜しいのである。


「ぎゃぁぁぁ!」

「やめ、お嬢ちゃん! やめてッ」

「痛い痛い痛い痛いですぅぅ」


「おー? 痛い? おー……」


「モ、モニカちゃん! 駄目だよ!」


「て、こら! モニカ! 止めなさい!」


 三人衆の傷を楽しそうにつんつんするモニカを、レオとクリスティアンの二人掛かりでやめさせる。

 アドラの存在は頼もしいことは事実だが、娘の成長に悪影響なのではないだろうか。そんな風にクリスティアンが少しばかし彼女たちの同行を後悔したのはまた別の話。


「おい、三馬鹿」


「「「はいぃいい!」」」


「お前らの頭と話がしたい。村まで案内しろ」


「「「いえっさー!!」」」


 長い時間訓練を行った兵士たちのように、息ぴったりに泣きながら返事をする三馬鹿なのでありました。

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