閑話 聖女のパパと勇者のママのお友達

第24話


「ふざけるなッ!!」


「んへぇ~」


 感情を隠そうともしない怒声が響き渡る。

 豪華絢爛を体現する巨大な部屋のなかに配置されるひと際美しく荘厳な椅子に座る一人の男性。一目見て高価であると分かる衣服に身を包み、宝石がこれでもかと散りばめられた王冠を被るその男は、ヒト族で最も偉いとされるこの国の王の役割を担う男。名を、ブラウリオ16世。

 巷で『剛腕王』と評されるほど、彼の見た目は王というよりは歴戦の兵士のそれであり。その見た目に似合った通り、彼の治世になってから幾度となく魔族への侵攻が繰り返し行われ、複数の領土を魔族より奪っている。

 戦いが続くということは、それだけ消費も激しく不満の声があがることもあるのだが、結果としては勝利を収めているため歴代の王の中でも現状では、人気の高い王でもあった。


 そんな巨躯から発せられる怒声に、部屋の端で待機している大勢のメイドは勿論のこと、同じく控える兵士の一部も驚きと恐怖を隠せずにいるなかで、王の前で直接怒鳴られた本人は、首をすくめはするものの、驚きも恐怖も見せはせず、むしろ言葉通りふざけているような態度であった。


「山賊どもには逃げられ、勇者殿は行方不明だと!? ふざけるのも大概にしろ、ディアナ!!」


「いやぁ……、ふざけているわけでも、嘘をついているわけでもないのがこれまた恥ずかしい限りでしてぇ」


「こんの……ッ!!」


 悪びれる様子のないディアナの態度に、どんどんと王の顔色が赤く染まっていく。別にディアナの女体に見惚れているわけではない。


 一度プチ噴火を起こしてはいるものの、これ以上の爆発を起こすわけにはいかないと、身体をプルプル震わせながら王は怒りを我慢する。


「……ふぅ、ふぅ! ……それで、勇者殿がどこへ行ってしまったのかの見当ぐらいはついているのだろうな」


「これがまたさっぱりで」


「……ディアナ」


「いやいやいやぁ、嘘じゃないんですよぅ? 報告の通り、ウチもアドラに殴られて気絶しちゃってたわけでしてぇ」


 ゆらり、と王の背後に沸き立つオーラに形式上慌てた様子で彼女は言い訳する。


「油断していたのはその通りですけどぉ、いくらウチでもあれに本気で殴られたらむしろ今生きているのが奇跡って言うかぁ?」


「…………わざとではないだろうな」


 ゆっくり納まっていく王のオーラに、ディアナよりむしろ控えていたメイドと兵士たちが安堵する。


「ないですないですぅ~、ていうかぁ、あれに殴られるのをわざとするとか、ウチはドエムじゃないわけですしぃ」


「して、もう一つのほうはどうだった」


「あ~……、それなんですけどぉ」


 ぽりぽりと自身の頬をかいて、ばつが悪いですとわざとらしく表現する。


「発見できた魔族は噂の通り二人。成人している男性と、娘らしき少女でしたぁ~」


「そんなことは聞いていない。どちらかが魔王だったかどうかを聞いている」


「ま、ま! 慌てない慌てなぁい。しょぉじきぃ、魔王かどうかの確証は得られませんでしたけどぉ」


「けど?」


「男性のほうは、それなりにはウチに抵抗出来るであろう魔力を保持しているようでしたよぉ」


「……つまり、最低でも貴族クラスの男ということか」


 ディアナの発言に、王は腕を組み元々険しい顔を更に難しく歪ませていく。


「ほかに、分かったことは」


「それぐらいですねぇ……」


「そうか。…………ディアナよ。今度こそ必ずや勇者殿を」


 ――バァン!!


「む」


「げぇ……」


 組んでいた腕をゆっくりとほどき、ディアナへと命令を下そうとする王の言葉を止めたのは、部屋へと通じる絢爛な扉を無理やりにこじ開けた大きな音。

 王が居らっしゃるこのタイミングでそのようなことをすれば、どんな罰を言われようとも文句は言えないことなのであるが、そんな常識外れの行動を行ったのは、


「ど! どどどどど!」


「……マリナか」


「あちゃぁ」


「どぉぉいうことですのぉぉおおお!!」


 美しきドレスに身を包んだ、一人の可愛らしいお姫様であった。

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