第23話


「ん、……うぅん、んッ……んま、……んぃ!」


 小さな口をこれでもかと大きく広げて、焼けた肉の塊にかぶりつく。少々固い肉に苦戦しながらも、モニカは大好物を幸せそうに食べ続けていた。


「で」


 自分が捕った魚を頬張りながら、アドラはクリスティアンへ言葉を投げかける。


「まずは眠らずの丘だったな」


「うん。二百年前に女神様が降臨され、それから夜がなくなったと言われている伝説の地だ」


 肉に必死でべたべたに汚れていく娘の口元を拭ってあげながら彼は答える。


「夜がないの? じゃあ、ずっと明るいんだね!」


「ええ、そうよ。ママとしては、ずっと明るいのはちょっと嫌だけどね」


「どうして?」


「寝るときに困っちゃうからよ」


「あッ! 確かにそうだね! 布団に包まらないと眩しくて眠れないもんね!」


「だけど、あそこは女神様の伝説が残る土地。当然だが、ヒト族のお偉い様なりなんなりが守っているが、そこんとこ……、どうするつもりなんだ」


 さらさらと絹糸のように零れる息子の髪を優しく撫でながら、息子に掛ける声とはまったく異なる声をクリスティアンに投げかける。


「……、認識阻害の魔法は使えるから、それで……なんとか」


「…………」


「いや、……はい」


「それはノープランって言うんじゃねえのか?」


「すいません」


「お前さ、よく馬鹿とかもっと考えろとか言われるだろ」


「そ、そんなことは……、なかった……はずなんだけど、ね……」


「ああ、そうかい」


 呆れている彼女の視線から逃れるように、クリスティアンは手元の魚をちびちびと食べ続ける。


「ディアナが失敗したことは国にもすぐに伝わるだろうし……、変に指名手配とかされると厄介だな……」


「おー!」


「うん?」


 肉の塊との戦いに勝利し、獲物を平らげた少女が元気よく手をあげる。


「モニカは、もう一つおにくをたべたいとおもう」


「魚にしておけ」


「おー……」


「お魚も美味しいよ?」


 希望とは異なる食事を手渡され分かり易くテンションが下がる少女を見かねて、レオが必死にフォローを入れてあげている。


「…………仕方ねえか」


「なにか手があるのかい?」


「山の向こう側にもいくつか山賊の村はある。そこで情報なり、ツテなりでもあたってみるよ」


「本当かい! それは助かるよ!」


「……お前…………、いや、まあ、いいか……。レオー? 自分の分のお肉をあげちゃ駄目よー」


「えッ! あ、あげてないよ!?」


「モニカももらってはない」


 声を掛けられてびくっ! としながら必死で首を横に振る息子と、汗をだらだら垂らしながら平静を装うとする少女の様子に、自然と彼女は笑みが漏れてしまうものの、これからのことを考え、思わずため息をついてしまうのだった。

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