第18話


「役割を捨てたい。なんて賢者のウチでも初めて聞いた意見なわけだけどぉ」


 気絶し、石縄で縛られた状態のアドラの上に座ったディアナが話し続ける。


「言われてみれば確かに分からなくはない意見なんだよねぇ? むしろ今までウチの周りで誰も言わなかったのが不思議なくらぃ?」


 んー、と美しい指をふっくらとした唇に近づけて、彼女は何やら悩む素振りを見せていく。


「まー……、それはそれとして」


 右から左へ、物を運ぶパフォーマンスをしながら、彼女は話を変えて、もとい戻す。


「お兄さん、会ったんだよねぇ? レオくん、当代の勇者に」


「…………あぁ」


「じゃぁさ、じゃぁさ、さっきアドラを助けちゃったことはどぉ思う?」


 彼女の問いにクリスティアンは答えない。それを良しとして、彼女はどんどんと言葉を紡ぐ。


「娘さんに示したいことがあるとか言ってたけどぉ、でもでもやっぱり命のほうが大事ではあるよねぇ? アドラが居なくなればお兄さんなら今のレオくんは簡単に殺せるよぉ」


「……だと、しても彼女を助けたことを後悔なんかしていない」


「ふぅん? 一番の危険である勇者が居なくなればたとえ娘さんが役割を理解した後でも調べものとか出来るのにぃ?」


「あぁ、そうだ。だから、彼女と私たちを見逃してほしい」


 自身を見つめてくるクリスティアンの真剣な眼差しを彼女は適当に受け流す。


「うぅん、でもぉ、もぉアドラの村はウチに付いてきた兵士達が襲撃してるわけだしぃ」


「なッ!?」


「いやぁ、普通するでしょ~、子どもじゃないんだから」


「君はッ! 君達は知り合いじゃないのかい!?」


「知り合いだけどそれがなにかぁ? ウチは賢者でこっちは山賊、こうなるのが普通でしょぉ」


「でも! だけど!」


「なはは~、馬ッ鹿みたぁい、おとぎ話じゃないんだから、馬ッ鹿みたぁい」


「ッ! それで本当に良いのかッ!」


「熱くなってるところ悪いけどぉ、良いからやってるわけでぇ」


「……そうか」


 ゆっくりと、片手を持ち上げ彼女へと向ける。

 そんな彼の行動を止めることなく落ちついた様子で彼女は眺めていた。


「そこをどいてくれ。彼女の息子と、村を救いに行く」


「嫌だと言ったらぁ?」


「君を殺す」


 大量の魔力が彼の体内で膨れ上がっていく。今までとは異なるはっきりとした殺意が込められた魔力。


「出ッ来るかなぁ?」


 その凶悪な魔力を前にしてなお余裕が崩れない彼女へ彼は魔法を、


「チャノ」


「こらぁぁぁあああ!!」


 放つ前に、彼らの間に飛び込んできた人物、それは、


「レオくん!?」


「あちゃぁ……」


 小さな勇者であった。

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