第17話


「ディアナァァアァアッッ!!」


 手にするものが巨大な大剣であるとは信じれないほどの速さで繰り出される連撃が振るわれるたびにガギンッ! と金属同士を打ち鳴らしたような音を立てて阻まれる。

 力の暴風に襲われながらも、ディアナは涼しい顔のままであり自身が発した言葉を受けて動きを止めたクリスティアンを楽しそうに眺めている。


「あの子、が……、勇者…………」


「なはは~、てことは実際にあの子にも会っているんだねぇ」


「その口ィ……ッ!」


「え? あ、それはやばい!」


 ここに来て初めて彼女が慌てた声を出す。視線の先には、大剣を構えて力をため込むアドラ。脇を締めて、足は肩幅に。力一杯踏み込んだのか、足下の地面にはヒビが入っている。


「閉じろやぁァアアアッッ!!」


「ちょ、ちょぉおお!?」


 フルスイング!

 耳に響く甲高い音をかき鳴らしてディアナを守っていた盾が砕け散る。直撃こそ免れたものの、すさまじい衝撃全てを殺しきることは出来ず彼女は弾き飛ばされ地面を転がっていく。


「ぁぐッ! ……ッ! チャマ!」


「らァア!!」


 詠唱を言い切る前に、アドラは大剣を地面にたたき込む。舞い散る砂埃が彼女の姿を覆い隠す。


「ミェ アッコ ピャウンレ」


 地面が鋭い槍となってアドラを串刺しにせんと伸びていく。砂埃にいくつも穴が開くが、そこに彼女の姿はない。


「そこッ! …………ありゃ」


 砂埃から飛び出した人影に向かって、土の槍が突き刺さる。ずぶり、と槍が突き刺さったのは、アドラがさきほどまで着ていた上着だけ。


「なはは……、引っかかちゃったよ」


 逆側から飛び出してきた彼女を視界で捉えながらも、もはやディアナに反撃を行う間は存在しない。

 岩をも破壊するアドラの右拳が、ディアナの頬へとぶち込まれる。


 前に。


「なんちゃって?」


「ガッ!?」


 細い、けれど確かな硬度を持った石柱がアドラの足下から飛び出し、彼女の顎を真下から打ち砕く。


 ぐりゅん、

 脳が揺らされ、白目をむいたアドラの身体が傾き倒れ込んでいく。


「アドラッ!」


「トラップぐらいは、仕掛けるよねぇ? 本当にあんたらしくもない」


 クリスティアンが駆け出そうとするけれど、そもそもの距離に差がありすぎる。彼が一歩踏み出す時には、倒れ込んでいくアドラの身体をディアナが支えていた。


「チャマ トゥマゴ ミェネ チェッフナウン」


 地面が、細い縄状になりアドラに巻き付き石化する。確実にふん縛ったのを確認して、ディアナは彼女を地面に放り捨て、まるでベンチのようにその上によいせ、と座る。


「それじゃあお話を続けようかぁ」


 胸を張る彼女の動きに合わせて、その大きな御胸が揺れ動き場違いな色気を醸し出していた。

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