断片八 叢林

 焚き木になりそうな枯れ枝を探しに、タツゾウは近くの叢林の中に入っていった。

 火をおこすのに使えそうな枯れ枝ならば叢林に入らずとも川辺を探せば見つかりそうだったが、タツゾウは少しの間だけ独りになりたかった。

 平然とはしているが頭の中ではオリツのことが渦巻いていた。


――誰のややを拵えたんだ。

 これまでタツゾウはオリツのことを意識したことなどなかったのだが、予想外だったオリツの拵えにタツゾウの心の中に今までなかった感情がくすぶりだしていた。


「あたしは、生まれつき拵えやすい体質なのさ」

 とかつてオリツがタツゾウに言ったことがあった。

 拵えは安心すると拵えることを始めることができるのだが、オリツの場合は護に身を任せてしまいやすい気質らしかった。若いときにはそれで何度か失敗をし、それに懲りてオリツは護とも孕みとも身は近づけても心の距離は遠くに置くようになった。

 タツゾウとも気易い関係ではあったが心はいつもどこか遠くにあった。

 タツゾウもそんなオリツの気持ちを理解していたし、オリツに対してはただの仕事仲間としてしか意識はしていなかった。


――タツゾウさん、今日はちょっと美味しいものをもらったからちょいとおすそ分けに来たよ


――タツゾウさん、暇だから邪魔しに来たよ


――タツさん、今夜暇かい、暇だったら飲みに行こうよ


 オリツとの会話の記憶がタツゾウの頭の中に次々と浮かんでは消えていく。

 どこかで自分自身の本心を見て見ぬふりをしていたのかもしれなかった。


 両手が重かった。

 気がつくとタツゾウは両手一杯の焚き木を抱え込んでいた。無意識に集めすぎていた。

 これだけあれば十分だろうと、その場に焚き木をおろし、焚き木を縛り上げるために手頃な蔦を探し始める。

 ほどよく丈夫な蔦を見つけたので、足りそうな長さを切り取り、集めた焚き木をまとめあげる。

 うじうじと考え込まないためにはなにかに熱中している方がいいし、そっちのほうが自分らしいな、とタツゾウは考える。

 焚き木を拾っては集め、集めては拾い、無心に繰り返す。

 気がつくと自分では持ちきれないほどの量になってしまった。

 チョウジも呼んで手伝わせるか、と思ったが、チョウジはチョウジでやることがある。これは自分の仕事だ。

 まずは一束だけ抱えてみんなのもとへと戻ることにしよう。

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