第7話 潜むもの 2

期せずしてあの男の話も聞けたので気力は十分。魔力も全快している。


洞窟の中は壁が仄かに発光しているおかげで視界は良好。さらに洞窟の幅も高さも戦うに十分な広さがある。足元もそこまで凹凸が少なく、しっかりしているので足を取られることもないだろう。


戦うには整いすぎいている。まるで元からそういう風に作られたようだ。

洞窟は進むにつれて幅も高さも広がっている。


それなりに歩いたころ、ようやく大きな広場に出た。天井は高く、円形になっている。


しかし、この広場で洞窟が終っていた。


誰もが困惑の表情を浮かべる中、アタシはそれに気づいてしまった。


周囲の壁が生きているかのように蠢いている。脊椎を氷で出来た手で掴まれるかのような感覚。


それと同時に前方で怒声が響いた。


「シュルツ、何を!」


その声の後、紅い液体が空に向かって勢いよく吹き上がった。


それが何なのか考えなくてもわかってしまう。そして、それが合図だったかのように周囲の壁が消えた。


文字通り初めから無かったかのように壁が消え、代わりに蠢く黒い影が埋め尽くさんばかりに現れた。


人型、獣型、翼が生えたものや形容し難いモノ。それらに討伐軍は囲まれていた。


「け、眷属・・・」


誰かが呟いた途端、そいつらは洞窟を震わすほどの咆哮を上げ、一斉に襲い掛かってきた。


そこからは地獄の様だった。


敵味方入り乱れた乱戦。其処ら中で悲鳴、怒声が響き渡る。


恐怖に任せ武器を振り回す者もいれば魔法を碌に狙いをつけずに放つ馬鹿者までいる。


目で見える範囲では同士討ちは起こっていないが、この状況が続けば遠からず起きてしまう。


敵の数は数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいいる。目測でも確実にこちらより多いだろう。


アタシのとっておきを使えば一掃することも可能だが今使えば味方も巻き込んでしまう。


「ごあぁぁぁぁ」


「蒼天を掛ける雷よ、穿て!」


襲い掛かってきた眷属の一匹に、一節だけで発動する魔法の範囲を極限まで収束して放つ。


低級の魔法と言え、一点に集中して放てばその貫通力は侮れない。


特に襲ってきているのはまだ弱い部類の眷属なのでこの程度で十分。


とにかく一瞬でもいい、この混乱を収め指示を聞かせることが出来れば、この状況を打破できる。

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