第3話 防衛戦2
東の大門の前ではすでに戦いが始まっていた。こちら側の魔法使いたちの放つ魔法が色とりどりの軌跡を描きながら眷属の軍勢を炎で包む。
しかし、軍勢の勢いがそがれている様子はない。
次第に距離が縮まり白兵戦に移行していく。魔法の派手な爆発音が止み、代わりに剣戟の音が上空まで響く。
「どうかこの戦いに我らが神の加護を——さ、僕らも行こう」
戦場に向かって急降下していく。ネロンとセッツも後に続く。
降下しながら戦場を見て、今まさに兵士へと止めを刺そうとする眷属へと突撃する。
「剣よ、闇を払え!」
祝福の言葉を唱える。剣に聖なる光が集まり、仄かに燐光を放つ。
「ぐらぁぁぁぁう!!」
止めを刺そうとしていた四本腕で獣の頭を持つ眷属が僕に気が付いた。迎撃のために噛みついて来ようとするがそれよりも速く、剣を額へと突き立てる。
突き立てた剣を伝って光が眷属の中へと流れ込む。
「光よ、その邪悪を払いたまえ」
眷属の身体中にひびが入り、そこから純白の光が溢れる。
体内に流し込まれた聖なる光に眷属は悲鳴を上げる間もなく飲まれ消え去った。少し離れたところではネッツとセロンが同じように眷属を屠っている。
「おい、天使様が来てくれたぞ!」
「援軍か!お前ら、一気に盛り返すぞ!」
戦場のそこかしこで雄叫びが上がる。勢いを持った防衛軍と協力し、数百体にも及ぶ眷属は瞬く間に討伐されていった。
「光よ、邪悪を払いたまえ!」
最後の一体を天使の力で屠る。消耗が激しい。流石に眷属の数が多かった。
「天使さん、お疲れ様。今ので最後だ」
酒場で話していた男が教えてくれた。防衛軍の面々は疲れ果て地面に寝転がっている者もいる。
「なんとか守り切れました」
「天使さんのおかげですな。助かりました。そうそう、グレルト総司令がお呼びでしたよ」
それを伝えると男はふらふらとした足取りで街の方に歩いて行った。姿は見えないがそう離れていないところでネッツ達も消耗して休んでいるようだ。
少し休んでからグレルトさんのところに行くか・・・。
そう考え地面に腰を下ろそうとした時だった。近づいてくるそれの存在を知覚した。西から近づいてくる眷属。先程の軍勢にはいなかった上位眷属。
それが数百体くらい。いや、強い気配に紛れて弱いものが同数程度。おそらく下級眷属。
「く・・・!」
ネッツ達は感覚でしかわからないが戦えるほどの余力を残していない。辛うじて戦える力を残しているのは僕だけだ。
翼を強く羽ばたかせ急上昇する。西側に目を向けて肌が泡立った。
波のように押し寄せてくる敵がすでに目視できる距離もまで近づいている。この数を一人で相手するには残りの力をすべて使っても足りない。自滅覚悟なら話は違うが。
どうする・・・。
考えながら西門の前へと降り立つ。勝算はない。自分の目的も果たせていない。天使としての思考ならば今すぐに撤退するだろう。
それでもここで引くという選択肢はない。
覚悟を決めて翼を広げ———
「ちょっと、そこの羽の生えた人」
急に後ろから声を掛けられ驚いて振り向く。たった数メートル離れたところに声の主はいた。
ゆったりとした黒いローブを身にまとい、古ぼけたとんがり帽子をかぶっているいかにも魔女という風体の少女。その少女が首に巻いたスカーフと同じ紅い瞳を向けて人形のような綺麗な顔に似合わない強めの口調で言ってくる。
「そこ、邪魔なんだけど。アタシの魔法に巻き込まれたいの?」
そして、ふん、とくすんだ金髪をとんがり耳にかけながら僕の横を通り過ぎていく。
「ま、待つんだ。君一人で立ち向かうのは無理だ」
その少女の独特の雰囲気にのまれかけてしまっていた。
彼女は見たところ魔法使いらしいがただの魔法では奴らは倒せない。
「はぁ、無理って・・・それはアタシが其処らの魔法使いと一緒だったらの話でしょ」
「何を言って・・・」
「アタシをそこらの魔法使いと一緒にするな、っていってんの。ほら、巻き込まれたくないならそこで眺めてなさい」
その顔ににやりとした微笑み、というより底意地の悪そうな笑みを浮かべ、杖を頭
上に掲げる。
「地上を裁く天の怒りをここに・・・雷鳴よ、轟け‼」
呪文の直後、閃光。
そして、無数の雷が眷属へと降り注いだ。
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