第70話 ワイバーン/Wyvern


「グオォォォォォォオオ!!」

 オーガの咆哮が、どんどん近づいてくる。


「アマリ・・・オーガがもの凄い勢いでルージュに向かってきてる。俺たちも急ごう!」

「はい! 《フォローウインド》《ウインドアーマー》」

 アマリージョが呪文を唱え、二人に風魔法をかける。


「準備完了です!」

 アマリージョは、すぐさま呼吸を整え合図を送ってくる。


「じゃあ一気にいくよ《クイックサンド》」

 俺の合図で、右手の手のひらにヒカリが瞬時に魔法陣を形成すると、手から大量の砂が吹き出した。


《ウインドストーム》


 アマリージョが続けて呪文を唱え、俺の出した砂を巻き込んで大きな砂嵐を作り、ルージュとオーガの間に放つ。


「よし! 上手くいった! アマリは後ろから回り込んでルージュの支援を頼む」

 思わず小さくガッツポーズをする。


「はい! クロードさんも気をつけて!」

 アマリージョは力強くうなずくと、踵を返して走り出す。


 アマリージョと別れ、一直線にワイバーンに乗っているオーガの元を目指す。

 砂嵐に巻き込まれた魔物の群れは、完全に足止めを食らっていた。



 オーガに気づかれたら一巻の終わりだ。目の前にいるゴブリンの群れに見つからぬよう、砂嵐で上手く身を隠しながら、オーガに近づいていく。

 もし、上空へ逃げらでもしたらとんでもなく厄介だ。


「ヒカリ、このまま突っ込んでオーガを蹴り飛ばすから、ワイバーンを先に殺るよ」


『はい、わかっています』

 オーガの姿を視界に捉えたところで、ヒカリと最終確認をする。


「おりゃぁぁぁあああ!!!」


 腹の底から声を出しながら、渾身の跳び蹴りを繰り出す。

 鈍い音とともに、吹っ飛んでいくオーガ。


「次! ワイバーン!!」

 素早く体勢を立て直し、大声で叫んだ。

 オーガが居なくなったワイバーンの背中に飛び乗ると、両手をワイバーンの翼に向けて呪文を唱える。


《ストーンスピア》


 石の槍が、飛び出して翼に突き刺さる。


「まだだ・・・《ストーンスピア》《ストーンスピア》」


「ギャオオォォォオオオオオ!!」

 石の槍が突き刺さったワイバーンが、喉が張り裂けんばかりの雄叫びを上げながら、狂ったように暴れ出す。


玄人クロード、急いで下さい。オーガが戻ってきます!』

 ヒカリの鋭い声が飛ぶ。


「え!? もう?・・・えぇい! 仕方ない!」

 迷っている暇はなかった。

 覚悟を決めて、拳に力を込める。


――――ドゴッッ!!

死に物狂いで暴れているワイバーンの後頭部に、渾身の一撃。


 そのまま正面に回り込むと、意識が朦朧としているワイバーンと対峙する。

 怒りで真っ赤に染まっていたワイバーンの目の色が、白く変わっていく。


 刹那、時間が止まる。


『来ます!!ブレスです!!』

 ヒカリが叫ぶ声と同時に、ワイバーンが大きく息を吸い込む。

 口の中がキラキラと白く光る。


「あぁ、わかってるっ!!」

 あの日、マンションで見た光景が脳裏をよぎる。たくさんの人たちが一瞬で氷漬けにされたあの光景――


《クイックサンド》


 ワイバーンの口の中に腕を突っ込んで大量の砂を詰め込む。

 息を吸ったまま、呼吸が出来なくなるワイバーン。

 行き場を失ったブレスが腹の中で暴走する。


「とどめだ・・・《ストーンスピア》」


 口の中に放たれた石の槍が、喉を突き破る。

 ワイバーンの声にならない断末魔が聞こえた気がした。


「ブレス、ギリギリだったよね・・・」

『はい、運が良かったです』

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