第71話 姉妹の絆/obbligazioni
森に入ってすぐに、敵の増援と遭遇する。
ゴブリンは10匹程度。
残りは獣型の魔物だ。
「くそっ! ちょこまかと・・・《ストーンブレッド》」
苛立ちながら、直線上に入る敵を、石の弾丸で次々と倒していく。
『敵も勝てない事を悟っていますね。さきほどから一定の距離を保ったまま、それ以上は近づいてきません』
「チッ! 今度は向こうが時間稼ぎかよ。仕方ない・・・あれやってみようか」
『了解しました』
大きく深呼吸をして呼吸を整える。
両手を高く掲げ、マップで敵の市を確認する。
『魔法陣展開、魔素を充填します』
身体から、大量の魔素が持っていかれるのが分かる。
『構成魔法陣置き換え、複製・・・再構成・・・索敵・・・目標、周辺の魔物全て。ロックオン開始・・・全目標に対して誘導・・・ストーンブレット作成。全魔素を魔力に変換・・・』
「よし! ・・・《ホーミングブレット》」
広げた両手の前に無数の魔法陣が展開し、少し大きめの弾丸が作成されていく。
出来上がった弾丸は、そのまま上空へ放たれると、生き物のように木々を避けて魔物めがけて飛んでいった。
弾丸が放たれるごとに魔力が体内から急激に抜けていくのが分かる。
空から次々に弾丸が降り注ぐ。
隠れていた魔物は何が起きたかも理解できずに魔石に変わり、逃げようとした魔物は追ってくる弾丸によって仕留められた。
そして、最後の一匹の眉間に弾丸に落ちたとき、目の前に閃光が走り、世界がゆっくりと暗転した。
♣
『・・・ド! ・・
遠くからヒカリの声が聞こえる。
「・・・ん・・あぁ、ごめん。どれくらい意識失ってた?」
ぼんやりした頭を振りながら、体を起こす。
『5分ほどです』
「なら、まだましか」
周囲を見渡すと、土の槍が地面から無数に飛び出している。
その槍の先には、先ほどまで周囲を囲んでいた魔物。
所々に魔石も転がっていた。
「魔素の消費が激しすぎて気を失うなんて、やっぱり実戦向きじゃないよね、コレ」
自嘲しながら、肩をすくめる。
『まだまだ、改良の余地ありです。と、それよりも早くルージュたちと合流を』
「ああ、そうだった。急がないと!」
体内の魔素を急激に失ったため、焦れば焦るほど身体が思うように動かない。
それでもなんとか気力を振り絞り、ふらつく足取りでルージュたちの元に向かった。
♣
「姉さんっ!!」
ルージュは、アマリージョが思っていたよりもはるかに強かった。
だが、オーガを圧倒するまでには至らなかった。
なぜなら、ルージュの持つ武器では、オーガの皮膚を貫けないからだ。
「せめて、一箇所でも穴が開けられれば・・・」
ルージュが悔しそうに、歯ぎしりしながら呟いた。
斬りつけるルージュの動きは目を見張るほどに素早く、攻撃が次々に当たる。
しかし、斬れるのはオーガの薄皮一枚のみ。
一滴の血を流すことすらない。
「あとは口の中か・・・そこなら・・・それに敵が合流する前になんとかしないと」
自分のやれることはすべてやった。覚悟を決めるルージュ。
アマリージョに出来ることは、もう何もなかった。
「フハハハハハハ。ニンゲンミナゴロシ、オレハ、ジャシンニウマレカワル。ジャマヲスルナ」
オーガが不気味な笑い声をたてながら、不敵な笑みを浮かべる。
「なっ!? 邪神に変わる・・? 生まれ変わるって言った今?」
ルージュの顔色が変わる。
「アア、ニンゲンノイケニエ、コロシテ、チカラエル。オマエタチツヨイ。コロシテチカラエル」
「アンタ、何言ってんの? 全っ然わかんないわよ!」
「眷属は邪神を呼ぶ存在ではなく、邪神になる存在? 姉さん・・ここは一旦、撤退しましょう。 せめてクロードさんが戻ってくるまで・・・」
アマリージョが懇願する。
「コイツはどうせここで死ぬんだから、邪神とかどうでもいいって言ってんのよ!!」
ルージュはそう叫ぶと、一瞬でオーガの背後に回り込み、背中を斬りつける。
だが、浅い傷が一筋ついただけだった。
「バカガ・・ダカラ、ムダダト・・・」
オーガが勝ち誇ったような口調で言い、ゆっくりと振り向く。
「バカはアンタよ!!」
振り向きざま、ルージュの剣がオーガの口の中に吸い込まれるように突き刺さる。
「イヤ、オマエダ!」
オーガの目がキラリと光ると、口に刺さったはずの剣を噛み砕かれる。
「!!」
ルージュの一瞬の隙を突いてオーガが剣を振りかぶる。
「シンデ、ワレノカテトナレ」
振りかぶった剣が、真っ直ぐ、ルージュに打ち下ろされる。
「姉さんっっ!!」
どこかでアマリージョの声がする。
その瞬間、世界がスローモーションに変わる。
目の前に近づく鉄塊。
オグルベアに襲われた時の事を思い出す。
だが今、ここにクロードはいない。
アマリージョと復讐しようと誓ったあの日。
父親も死んでしまった。
村に移り住んだ日。
母親が出て行ってしまった。
もう何もない。
もうアマリしか。
アマリージョ・・・可愛い、可愛い、私の妹。
アマリージョ・・・ごめん。
絶対に一人にしないって約束したのに。
静かに目を閉じる。
頬を生暖かい感触が伝わる。
その濡れた頬を誰かがそっと優しく拭う。
・・・誰?
・・この手・・・ア・マリ・・?
「・・っ!! アマリージョ!?」
ルージュが我に返る。
目に光が戻る。
空がまぶしいほどに明るかった。
「助かった・・・」
そう呟いて、辺りを見回す。なんだか体が生暖かく、ひどく重い。
次の瞬間、目を見開いてギョッとする。
アマリージョが仰向けに横たわる自分の上に覆い被さるように倒れていた。
「アマリ!!」
「姉さん・・・良かった。姉さんは負けちゃ駄目。私の姉さんは世界で一番強くて・・・カッコいいんだから・・・」
アマリージョが微笑んだ。
だが彼女の声はひどく掠れていた。
「うん。アマリ・・・ありがと」
微笑みながら答える。
「・・・」
「アマリ?」
アマリージョから返事はない。
アマリージョを抱きかかえながら、そっと上体を起こして息をのんだ。
周囲が真っ赤に染まっている。
その瞬間、体を包む生暖かい感触が、大量に流れた血液だったことに気がつく。
なぜ!? 自分はどこも斬られてはいない。
「!!・・・アマリ!?」
アマリージョの体に目をやった瞬間、全身の血の気が引き、体が凍りつく。
大きく斬られたアマリージョの背中からは、大量の血液が止めどもなく溢れ出ていた。
「いやあぁあああああああ!!」
ルージュの絶叫がこだました。
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