第51話 鳥の味/Il gusto di un uccello
村に戻るともう夕暮れも近かった。
一旦、馬車を倉庫に入れて、ルージュとアマリージョと共に村長の家に報告に行く。
ヒカリは、明日まで動かさないでくれ、と言うので馬車の中に置いてきた。
何をしているのかさっぱり見当もつかなかったが、何かに熱中していることは間違いなかったので、そっとしておくことにした。
「村長! ただいま~!」
バタン! という激しい音と共に、村長の家のドアが開けられる。
「わっ!! 驚かすな、ルージュ!」
村長が一人驚いたように言う。
奥さんと息子のジョセフは、いつものことだと言わんばかりに全く気にも留めていないようだった。
「ただいま戻りましたので、ご報告に伺いました」
俺が少しかしこまって言うと、
「いやいや、そんな丁寧にせんでいい。それよりも、せっかく来たんだ、婆さんも呼んでみんなで晩飯でも食っていくか?」
「あ、いや、そんな、突然じゃご迷惑で・・・」
「あら! 村長、太っ腹ね。あ、そうだ、今朝獲ったゲフ肉があるから、みんなで食べましょうよ」
「何!? ゲフー鳥を捕まえたのか。朝鳴き声が聞こえたから、みんなで探してたんだぞ。ルージュが捕まえていたのか!」
村長が驚きと興奮が入り交じったような、大声で言った。
「うふふふふふふ・・・しかもメス。1メートル超えの大物よ!」
「すごーい! ルージュ姉ちゃん!! さすが僕の先生だ!!」
ジョセフが目をキラキラさせながら、ルージュの周りをまとわりついている。
――ん? 何か今、聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたが・・・まあ、気のせいだろうな。
「クロードさん、今さら帰りませんよね。せっかくですし、ゲフー鳥、一緒に食べていきましょう!」
少し躊躇していると、アマリージョも食事を勧めてきた。
「うん・・・仕方ないか。村長さん、お言葉に甘えてご飯頂いていきます」
「お、そうか。ならば今日はゲフー鳥づくしだ。誰か婆さんを呼んできてくれ」
♣
そして、宴会が始まった。
この村は、水が不足して大変だと聞いた。
だが、いつも明るく楽しそうで気のいい人たちばかりだ。
村長にいたっては、メインのゲフー鳥が出てくるのを今か今かと待ちわびて、お酒をがぶ飲みしていたが、完全に出来上がってしまったようで、
「ゲフー鳥は誰にもやらん! 儂のものだー!!」と、窓から叫んでいた。
気がつくと、部屋にいる人数が増えていた。
案の定、近所の人が集まってきたようだった。
何か用事を作っては村長の家を尋ねて来てはいたが、全員、ゲフー鳥が目当てのようだった。
まあ、村長があれだけ大声で窓から叫んだのだから、当然と言えば当然だが・・・
「はい。スープとお肉が焼けたので、こちらは、みんなで分けてくださいね」
村長の奥さんがゲフー鳥のスープとオーブンで焼いた肉をテーブルに並べてくれた。
「ありがとうございます」
アマリージョが俺とルージュとジョセフの4人分を取り分ける。
奥さんは、テーブルにつかず、集まった村人たちに、大きめに切った肉を金串に刺して焼いた、言わば焼き鳥のようなものを振る舞っていた。
村長は、窓の所で大きないびきをかきながら寝てしまっていた。
――あんなに食べるのを楽しみにしていたのに・・・
村長に少し申し訳ない気持ちを抱きながら
まずはスープを一口。
「!! 何これ!? うめええぇーー!」
「でしょ!! この濃厚なのに上品な感じの奥深いスープがたまらないのよね! 肉は柔らかくて、油がのっているのに、ほのかに感じる柑橘系の風味がさわやかなのよね! 」
自慢げにルージュが説明してくれた。
「うん。確かに・・・なんだろこれ。レモンみたいな、オレンジみたいな爽やかな感じがする」
「焼いた肉を食べるともっとよく分かりますよ」
アマリージョがそう言って、焼いた肉を勧めてくれた。
「おぉぉ本当だ。焼くとさらに肉って感じがして美味しいね。油が凄く甘いし、それに柑橘系の風味をさっきよりも強く感じるかも・・・」
「この時期のゲフー鳥はまるまる太っていて美味しいだけでなく、柑橘系の木の実を好んで食べる習性があるので、肉が爽やかに香るんです。焼くと風味が引き立つのでよく分かりますよね」
アマリージョが、ジョセフの分の肉を細かく切りながら説明してくれた。
「ありがとう、アマリ姉ちゃん」
ジョセフがアマリージョにお礼を言って食べ始めた。
「アマリージョさん、ありがとう。ジョセフも良かったわね。それと・・・クロードさん、無事に引っ越しは終わりましたか?」
村人に焼き鳥を、配り終えた奥さんが、ジョセフの隣に座る。
「はい。おかげさまで荷物は全部運んでくることが出来ました。村長さんには、馬車まで貸して頂いて本当に助かりました、ありがとうございます」
「そう、それは良かったですわ」
奥さんは、ゆっくりと優しく微笑む。
「それでね、フェリスさん。クロードがついでに私たちも好きなものを持って帰っていいって言ってくれたから、いろいろ持ってきたの。もちろんジョセフにも、お土産も持ってきたわ」
ルージュがジョセフに顔を近づけて言うと、ジョセフが嬉しそうに、あれこれ質問していた。
ルージュは内緒の一点張りで、明日片付けたら、持ってくると約束し、優しく彼の頭を撫でた。
一体何を持ってきたのだろうか。
マンションにも子供はいたから、おもちゃもあったとは思うけど。
その後、ジョセフを中心に色々な話をした。
やはり子供は可愛いものだ。
さきほど気になっていたルージュを「先生」と呼んでいたことについては、時々遊び相手をするときに、剣術を教えているからだった。
剣術といっても、ルージュのは、ほとんど自己流らしく先生と呼ばれるのを嫌がっていた。
気づけば夜もだいぶ更けていたので、村長の奥さんに食事のお礼を言い、3人で家路につく。
「ねぇクロード。あなたまだ引っ越しも終わってないし、ベッドも持ってこなかったのよね?」
ルージュが唐突に聞いてきた。
「あぁ、使っていたベッドはかなり古かったし、ブルーノさんと所にあったベッドのほうが、質が良かったからね」
久々のお酒のせいなのか、楽しい時間をすごしたせいなのか、足取りがふわふわしていた。
「そういうことなら・・・うちでもう一泊していきなさいよ。帰っても寝る場所が無いんだし。それで明日の朝一でブルーノの所へ行って、一緒に買い物しましょう!」
ルージュは俺の答えも聞かずに決定事項のように言った。しかも何か楽しそうだ。
「別に買い物くらい一人でも大丈夫だけど」
なんとなく反抗してみる。
「ほら、ゴブリンの魔石。これを売っていろいろ買いたいの。それに、クロードは割引してもらえるって話だったでしょ! 一緒に行けば安くなるかもしれないわ」
「ああ、俺じゃなくて金か・・・まあ、いいよ。じゃあ今日泊めてくれるならそのお礼ってことで。それから、その魔石も俺が売ることにして、買い物もまとめて俺がするよ、そうすれば割引は大丈夫だと思うし」
「やった! ありがとう、クロード。これでやっとちゃんとした剣とかが手に入りそうね」
ルージュがうれしそうに、アマリージョを見た。
「良かったですね、姉さん」
アマリージョも自分のことのようにうれしそうだった。
「あなたのもよ、アマリ」
「私も?」
アマリージョが驚いた顔をして言う。
「とりあえず剣と杖。どちらかでも必要でしょ」
「でも、足りるかしら・・・」
「その辺はなんとかなるわよ。こっちには割引券がいるからね」
ルージュはこちらを見ていたずらっ子のように笑う。
「割引券って・・・まあいいよ。それと明日、馬車から荷物運ぶの手伝ってもらうからね」
「はい」「わかってるわよ」
二人が答えた。
――ヒカリ、そういう事になんだけど、今から迎えに行っていい?
『――事情はわかりました。ですが今、馬車の中を離れる訳にはいきませんので、明日、午前中にブルーノさんの店に行き、全ての買い物を済ませてから戻ってきて頂けると助かります。家のほうに何かあれば、すぐに知らせます』
――そうなの? 別にいいけど・・・でも、危ないこととかしないでよ
『はい。こちらは万事、問題ありませんので。ではまた明日に』
――わかった。 じゃおやすみ。ヒカリ
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