第20話 同化/assimilazione

玄人くろとさん、能力の付与など設定が全て終わりました。最後に魔石の形を決定して終了ですが、形を調整したいので、左腕の傷口を私のカメラに向けて見せてもらえますか?』


「見せるの? いいけど・・ヒカリはてっきり魔素の動きでなんでも見えてるのかと思ってたよ」

 左腕のタオルを湧き水で一度濡らしてからタオルを外す。


『魔素のおかけで3キロ圏内くらいは見えてますよ。ただ、細かいものを見るためには、直接カメラで見た方が解像度も高いですから』


「その割には、マンションに行った時、いろいろ場所を細かいものまで把握してたよね?」


『あれは、玄人くろとさんが、何か見つける度にブツブツと呟いていましたから。それをデータ化しておいただけです』


「独り言まで聞いてたんだ・・・これじゃ迂闊にしゃべれないな」

 そう言いながらも、機能面が意外とアナログ使用だと分かり、少しホッとした。


『もう少し、カメラに近づけてください・・・それと、口にした独り言や寝言は、その都度記録し、秘密のファイルと一緒に保管してあります。何かに利用するというよりは、困ったときの助けになれば、という程度のものですので。ご安心ください


「さすがに寝言が役に立つとは思えないけど・・・」

 アナログの使用が想像よりも凄くて少し引いた。


『データは大切ですから』


「そんなものかな・・・」


『そんなものです。例えば、武器や罠について日本にいたときに一度でも検索しておけば、もう少しきちんとした作り方を説明することが出来たと思います。私もいろいろ説明する上で、この世界のことはブルードラゴンの一部の知識しか利用できませんし、そのほかの知識については以前使っていたデータからしか、引き出せません。早くこの世界の人間と出会い情報を得るか、または図書館のような施設があると、データも増えて、生活も楽になると思うのですが』


「そうか、パソコンなのにいろいろ悩んだりしてるんだね、ヒカリは」


『はい、これでも半分魔物ですので』


「人の心配をする魔物っていうのも変だとは思うけどね」


『そうですね・・・解析が終了しましたので、魔石を生成します』

 そう言うと、ヒカリの画面上部あるカメラからレーザー光線のような光が何本も出てきた。


 光線は机の上の一点に集中してから、上下左右に細かく往復する。

 その様子を眺めていると、下の方から魔石が形作られていくのが分かる。


「なんだか3Dプリンターみたいだね」


『作っているのが魔石なので、魔素だけあれば作れますが、魔石以外だとうまくはいかなそうです。本物の3Dプリンターと材料があれば、武器なども製作できると思いますよ』


 魔石が半分ほど出来てきた。

 もの凄くすごく凸凹でいびつな形をしている。


「えっ?プリンターがあったら、あんな武器を作らなくてもよかったんだ」


『大きさにもよると思いますが、設計さえ出来れば可能です』

 魔石がもう少しで全部できあがりそうだ。


「でも、マンションには普通のプリンターしか無かったからな。一応、覚えておこう」


『完成しました』


「おぉ、すごい! 本当に出来るんだ! しかも凄い綺麗。深い青というか、吸い込まれそうな不思議な色をしているよ」


『色のベースは、私と同じブルードラゴンです』


「魔石って、生成するとき周囲の魔素を集めて作るんじゃないの?」


『通常はそうですね。ですが付与する能力に制限が出来てしまうため、今回作ったものは、全て私の魔素だけを使用して作りました。そのせいで時間がかかってしまいましたが、性能は良いと思います』


「そうなんだ。なんか色々考えてくれて、悪かったね」


『いえ、もし周囲の魔素だけで魔石を作ると、作りが雑な気がしましたし、そのうち作るかも知れない部下や奴隷と同じになってしまいますので。初めてですし、少し頑張りました』


――え? 何それ・・・やっぱり同化すると奴隷っぽくなるんじゃん


『これは大丈夫です。私とほぼ同等の存在となるように作りました。奴隷や配下という事ではなく、同僚みたいな感じです』


「同僚か・・・悪くはないな。でも現状は、どう考えてもヒカリの指示で生活してる訳だし・・・同僚というより、先輩・後輩、いや上司と部下って感じかな、これは・・・」


『そんなつもりは無かったのですが・・・』


「いや、それでいい。今からヒカリは上司で俺は部下。俺はヒカリのためにできる限り事をするよ。その代わりヒカリは、一緒に日本に帰る方法を探してよ」


『分かりました。私もできる限り協力して、日本へ戻れるよう努力します』


「ありがとう」


『では、さっそくですが、まず上司のタイプについて、ご希望はありますか? 秘密のフォルダを参考に考えますと、モデルが3名ほどおります。まず一人目は、赤いメガネをかけた上から目線の美脚の・・・』


「あー、いや、ごめん。今のままでお願いします。ほんと。すいません。秘密のフォルダなんて作ってすみませんでした・・・」

 これ、わざとだよね。


 いろいろとツッコミたいところもあるが、今は出来上がった魔石と早く同化したかった。

「それで、これどうすればいいの?」


『ふふっ・・・・』


「今笑った? 笑うの? ってか笑えるの? パソコンなのに?」


『半分魔物ですよ。それに笑うという感覚が少し分かったような気がしました』


「・・・やっぱりからかってたのか・・・そういう笑いはいらないんだけど」


『気をつけます。では魔石ですが、そのたくさん突起がついている方が下になります。魔石のその部分を傷口に合わせていただければ、ちょうどぴったりと傷の中に入るサイズになっていますので、体内に吸収されるのも早いと思います。最初は、かなり痛むと思いますので、気休めかも知れませんが湧き水をかけてから、傷口に入れてください。入れた後は、上から包帯やタオルで固定しておいてください』


「分かった。こっちが下か・・・あぁ緊張してきた・・」

 言われた通りに、傷口とついでに魔石にも湧き水をかける。


 大きく深呼吸をする。


 傷口の位置を合わせる。


 もう一度、大きく息を吸う。


 そして

「うおぉぉぉ おれは人間をやめるぞー!」


 一気に傷口に魔石を差し込んだ。


 ・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・


 ・・・・・・


――ん? あれ痛くない?


 腕はすごく熱いけど痛くはない。

 これは、覚悟の割に拍子抜けだった。


「これ全然痛くないよ。むしろ快適な感じ。ありがとう、ヒカリ」


『はははははっ かかったな アホが!』


――!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 一瞬で血の気が引いていく。


 やっぱり、軽率過ぎた。


 悔やんでも、悔やみきれない。

 

「で、でもなんで・・・」


『あ、冗談です。先程の台詞には、こういう流れの台詞が必要かと思いまして』


「・・・・・・・」


 マジで人生終わったかと思った。

 人が生きるか、死ぬかの選択でやったことに、冗談で返してくるか?

 ヒカリには感情を与えてはいけない気がする。


 普段がマジメな分、冗談だとは思えないのが恐ろしい。

 笑いがブラック過ぎる。


 なまじ知識があるから、感情の制御がややこしいのかな。

 

 誰か、ほかの人間とも出会えれば、コミュニケーションも少しは変わるだろうか。

 このまま成長したら、完全にヤバイ奴になりそうで怖い。


 そのうち、真冬の湖とかに飛び込めとか言われて、ガタガタ震えるのを見て爆笑とかしそうな勢いだ。


 普段、きっちりしている分、笑いとか覚えたら、マイナス2度までは死にませんとか・・・絶対きっちりマジメにやりそうだし。


 いや、そういう意味では、ヒカリは魔物としてのポテンシャルが高いのかも知れない。

 動けないから、強いとかではないけど。


 人を精神的に追い込むのが上手い魔物。

 いや、笑いと称してナチュラルに虐めになっちゃう上司って感じか。


 ヒカリは同僚っていっているけど、与えた者と与えられた者の差は大きい。

 既に俺は魔石と同化しているし、今更、上下関係は揺るがないよな。


 腕の傷と引き替えとはいえ、ずっと尻に敷かれるのか・・・


 俺は、魔石を腕に入れて同化したことを、ほんのちょっとだけ後悔した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る