第2話 今日と言うday

「ふーん、烽火先輩に初対面でフラれてだからその調子なのか」



君恋の34巻を逆さまに読んでいる放心状態の涼を見て相良は笑いを堪えながら言う、烽火先輩とは初対面なのに何故あんなに嫌われているのか……だいぶショックだった。



別に彼女の事が好きな訳では無いがあれだけ綺麗な人に拒否されると男として心に来るものがあった。



「烽火先輩変わってるって有名だから別に気にしなくていいんじゃ無い?」



「そう言われてもな……」



相良の前に割って入る様に南崎が机の上に座り足を組む、相変わらずスカートが短く、クラスメイトはここぞとばかりに南崎の事を凝視していた。



そんなクラスメイトを他所に5回目くらいのため息を吐く、割り切りの良い性格が売りだったのだが……何故烽火先輩にフラれた事でここまで落ち込んでいるのか自分でも分からなかった。



「お前らー座れよ、南崎もはしたないぞー」



ドアが開く音と共に白衣を着た先生が教室に入ってくる、そして気怠そうな顔で教卓に立つと欠伸をした。



「あー、二限目に入る前で悪いんだがもうすぐ中間テストだろ?そんな大事なテストを前に悪いんだがこのクラスから一人、放課後の図書室を整理して欲しいんだ」



先生の言葉にクラスからはブーイングの嵐だった。



「すまんな、三年の柏木先生と俺がじゃんけんで負けちまってな、取り敢えずぱっぱと決めてくれ」



そう言って教卓の椅子に座る、相変わらず担任の尾崎先生はいい加減だった。



教師なのに口癖がめんどくさい、授業もテキトーで何故教師になれたのかよく分からない人だった……だが生徒からの支持は厚い、何故だか憎めない謎に包まれた教師だった。



「みんな静かに!」



尾崎先生の呼び掛けで前に出てきた黒髪ショートの眼鏡をかけた真面目そうな少女、彼女は委員長の高杉 美咲だった。



正直彼女とは話した事がない故にあまり性格も分からない……と言うか興味なかった。



「誰か立候補する人は居ませんか?」



高杉の言葉にクラスメイトは誰か立候補していないかと辺りを見回す、どうせ俺はやらないだろうと涼も机にうつ伏せになって他人行儀だった。



暫くの沈黙が続き高杉の悩んでいるのか、唸る声が聞こえる……すると突然相良が沈黙を破った。



「涼がやりたいってよ!」



後ろの席だった相良が涼の手を掴んで上げる、突然の事に涼は固まっていた。



「良かった!それじゃあ涼くんに決まりね!」



高杉の言葉にクラスメイトも同調する、だが図書室の整理なんてめんどくさい事絶対にやりたくなかった。



「ちょっと待ってくれよ!」



異議を唱えようと声を大にするがチャイムによってそれは掻き消されてしまった。



すぐさま後ろの相良を見る、すると相良は笑ってグーサインをしていた。



「お前やってくれたな」



「明日の昼飯奢るぜ」



相良の提案に俺は頷いた。



昼飯が奢って貰えるのなら何の問題もない、図書室の整理なんて朝飯前だった。



「はぁ……あいつも薄情なやつだな」



図書室の一件から2時間が経ち、俺は五百円を握り購買の前に立っていた。



昼飯を食う約束をしていた相良はサッカー部の奴らと飯に行き、俺は一人ぼっちという訳だった。



適当に焼きそばパンとカレーパンと言う安定の二つを買うと階段を登り屋上を目指す、基本屋上は立ち入り禁止なのだが相良と食べない時は大抵屋上に行っていた。



理由は静かだから、教師もわざわざ見回りには来ないし生徒も居ない……俺からすれば安息の地だった。



階段を上がり続け4階に着くと屋上へと続く階段を上がる、そして扉を開けると高いフェンスに囲まれた中心に気持ちばかりの木が植え付けられた屋上が広がって居た。



「相変わらず気持ち良いな」



人が居る気配も無く、木の下でパンを食べようと木に近づく、その時一瞬だが白い髪が木の裏から靡くのが見えた。



その髪色に心臓の鼓動が早まる、あの髪色は間違いなく烽火先輩……だが何故立ち入り禁止の屋上に居るのだろうか。



真面目そうなイメージだったのだが……それよりも今は先輩に会うのは少し気まずかった。



朝フラれて近づくなと言われたばかりにも関わらず、その日に再会するとは……同じ学校とはいえ運命を感じた。



だが話し掛ける訳にも行かず、屋上の隅っこの方でパンを頬張る、今日はいい天気だった。



時々吹く風が心地いい……目の前には園芸部の家庭菜園が作られていた。



だがそんな事よりもずっと……烽火先輩が気になって仕方なかった。



初対面で嫌われた事がショックだったのでは無い……今はっきりと分かった、烽火先輩を見ると胸が苦しくなる、恐らく……いや、絶対に俺は先輩に恋をして居た。



付き合いたい、手を繋ぎたい……あわよくばキスもしたい……理由は不純だが好きなのには変わりなかった。



とは言えそれは叶わない願い、何せ俺は烽火先輩に嫌われているのだから。



何故嫌われて居るのかは数時間経った今でも分からない、ふと彼女なりの挨拶かとも思ったが例え変人と言われようとそれは無さそうだった。



「うーん、どうしたものかなぁ」



「あら、何を悩んでるの後輩?」



「いやーね、実は俺好き……ん?」



自然な流れでつい話しをして居たが俺は今誰と話しているのだろうか。



ふと隣を向いて見る、するとそこには美しい烽火先輩の顔が凄く近くにあった。



「ほ、烽火せんぴゃい?!」



「烽火せんぴゃいよ、こうぴゃい」



噛んだ事を軽くいじって来る烽火、いや……そんな事よりも俺の事が嫌いな筈の烽火が何故俺に話し掛けて来たのか意味が分からなかった。



だが可愛い……思わず口元が緩んで居た。



「何を考えてるのかは知らないけど不純な事を考えてるわね」



「と、ととんでもない?!烽火先輩に不純な感情なんて無いですよ!」



「ふーん」



ジトッとした目で見て来る烽火先輩の視線が耐えられない、何て尊いのだろうか……オタク達が推しを見つけたら凄く推す理由がやっと分かった。



因みにどうでも良いだろうが俺もオタクだが推しが見つからないタイプのオタクだった。



そんな事は置いておいてこの夢の様な時間に俺は今にも昇天しそうだった。



朝の時とはすごい変わり様、恋と気がついた人はこんなにも心境が変わるとは……ずっと黙って見つめて来る烽火先輩、確かによく分からない人だった。



「そうそう、朝はごめんなさい、君恋の展開がどうも納得行かなくて貴方に当たってしまったわ」



そう言い澄ました顔をしながらも片手で謝るジェスチャーをする烽火先輩、ぼんやりとしか覚えて居ないが君恋の展開は確かに納得出来ないものがあった様な気がした。



「確か主人公の涼が幼馴染の花蓮の約束を忘れてクラスメイトの日和とデートしてたんですよね」



「そうなのよ、幼馴染との約束を忘れてあんなアバズレとデートだなんて……」



そう言い唇を噛み締める、少し意外だった。



あまり感情を表に出さない人なのかと思っていたが今の烽火先輩の表情は少し怒っている様だった。



だがその表情も美しかった。



「なに、にへらってるの?貴方の間抜けな感じとか主人公の涼に似てるわね」



そう言い頬っぺたを引っ張る烽火先輩、確かに変な先輩だった。



チャイムの音が聞こえ烽火先輩は頬から手を話すと立ち上がった。



「そろそろ行くわ、暇つぶしありがとう」



その言葉だけを残して屋上から去って行く烽火先輩、一方の俺は頬っぺたを触れられた事により、放心状態だった。



嫌われていたかと思えば急なスキンシップ……嬉しすぎて天にも登る気分だった。



「うぉおぉ!!最高かよ今日と言うTo day!!」



そう言い叫ぶ、だが自分の言った言葉に首を傾げた。



「ん?To day?dayだけで良いのか?」



どうでも良い様な事を呟きながら涼は教室へと戻って行った。

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星が降る流星群の夜に君とまた会おう 餅の米 @mochi_nokome

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