星が降る流星群の夜に君とまた会おう

餅の米

第1話 先輩との出会い

星が降る夢を見た、暗い夜空に浮かぶ幾千の星々、それが一斉に降り出す夢を……隣には綺麗な少女が悲しげな笑顔で星を見上げる、そんな夢だった。



「ーーー綺麗ですね」



俺が何かを少女に言う、だが何故か名前の部分が聞こえなかった。



その時少女がこちらを向き、泣きそうになりながら言った。



「お兄ちゃん起きて!!」



妹の大声で少女が何かを言う前に夢は途切れた。



「わ、分かった、起きる……」



「私部活だから先に行くよ!」



そう言って妹は頭を殴り出て行く、時計を見ると7時……部活と言うのは忙しそうだった。



「んん……今日はやけに眠いな」



伸びをしてベットから起き上がると眠い目を擦りながら1階へと降りて行った。



さっきの夢は一体なんだったのだろうか……ふと日付を見ると5月27日だった。



なぜか昨日に丸が振ってある、だが昨日の記憶なんぞ全く無かった。



恐らくいつも通り学校から帰ってゲームをして寝る……そんな1日だったと思う、頭を悩ませながらも用意されて居たご飯を食べようと口を開けた時、顎に痛みが走った。



「痛っつ……」



謎の丸に顎の痛み……だが特に気にも留めることなくカバンを持つと玄関を出て鍵を閉める、上を見るとまだ五月と言うのにも関わらず凄い晴天だった。



自己紹介が遅れたが俺の名前は水橋 涼、特にこれと言って特徴が無いそこそこのレベルがある進学校に通う高校二年生だった。



進学校に通っているとは言っても成績は中の下、下から数えた方が早いくらいの成績だった。



正直言って勉強は嫌い、なら何故進学校に居るのかと言うと勉強以上にスポーツ、つまり運動が大嫌いだったからだ。



俺の通って居る舞進高校は進学校の中でも体育の実技が少なく、勉学が多い授業構成になって居る……だからこそこの高校を選んだのだった。



「おーっす涼」



閑静な住宅街を抜けて様々な音が飛び交う街に出る、すると後ろから声がした。



「うーっす相良」



少しガタイの良いオールバックと言う高校生にはあまり似つかわしく無い髪型の男相良が涼の肩を叩く、彼は進学校の学力ランキングドベをキープし続ける舞進高校始まって以来のバカだった。



相良はスポーツ推薦で入学したサッカーの特待生でかなりモテる、正直俺とは正反対の陽属性だった。



彼と仲良くなったきっかけは正直覚えて居ない、何故か綺麗に記憶が無かった。



「もうそろそろ中間テストだけどお前大丈夫か?」



「あー、そう言えばもうそろそろか」



「俺は推薦だからある程度の点とりゃ良いから余裕だけどなー」



「ったく、運動神経抜群の相良さんは良いですねー」



カバンの中から定期を取り出すと同じ紺色の制服を着た生徒達でごった返す駅の改札を相良と共に潜り抜ける、そしてホームへ行こうとした時蠢く無数の黒い頭の中に一際目立つ白髪の頭が見えた。



「あの人は……」



見たことのある髪色……だが知り合いでは無いのは確かだった。



「どうした?お前荻上先輩が好きなのか?」



「荻上?」



初めて聞く名前だった。



「そうだよ、荻上 烽火、舞進切っての天才であり変人の荻上先輩だよ」



「荻上 烽火……」



初めて聞く名なのに懐かしい……何処かであって居るのだろうか、そんな事を考えて居ると電車が出る音が聞こえた。



「やっべ、急ぐぞ涼!」



「ま、待ってくれ!」



先に走る相良を追い掛ける様に走る、だが全く運動してなかった所為に加えて相良の速すぎる足に置いていかれ、電車に乗り遅れてしまった。



「あ……」



電車のドアが閉まるのを見て察する、今日は遅刻確定だった。



歩いて学校まで行くとしたら1時間はかかる……だが割り切りが良いのが俺の長所、乗り遅れたものはしょうがなかった。



『置いてって悪い!』



ピコンと言う音と共にメッセージアプリに通知がつく、相良からだった。



『今日昼飯何か奢れよ』



『しゃーねーな^^』



ムカつく顔文字と共に相良とのやり取りが終わる、ホームの椅子に座り周りを見回すが人が全然居なかった。



いつもなら次の電車を待つ人がちらほらいるのだが……まぁそんな日もあるのだろう。



「そう言えばまだログインしてなかったな」



携帯のアプリを開きログインだけをする、一人の時はしない無駄なアプリがいっぱいだった。



ふとメッセージアプリの通知がまだ1残っているのに気が付き開く、するとunknowと書かれたトークルームに『さよなら』のメッセージだけが来ていた。



「何だこれ」



誰か電話でも変えたのかと思い少ない友達の欄を見るが5人全員居る、と言うか5人ってあまりにも少ない気がした。



父に母、妹に相良、そしてクラスメイトの南崎さんだった。



別に人見知りと言うわけでは無いのだが人と連絡を交換するって言う行為が面倒臭かった、特に仲良くも無い人となら尚更、学校では大体その二人としか話さないし必要最低限の友達が居れば良かった。



「はぁ……」



携帯の時刻は7時半、そして時刻表に書かれている次の電車は8時だった。



携帯のツミッターを眺めバズっている動画や今話題の情報を取り入れる、その時一つ気になる動画があった。



『昨日予報無しでいきなり降った流星群凄かったー』



そのタイトルと共に10秒ほどの動画が添付されている、イヤホンを付け、三角マークの再生ボタンを押すと動画には撮影者の声と共に動画でも分かるほどに綺麗で圧倒される流れ星の大群……流星群が振っていた。



気が付けば昨日の流星群の事を調べていた。



流星群は8時半から5分間と言う異例の長さで降り続け、日本全国で見られたと言う。



予報士も何の予兆もなく急に訪れた流星群に驚きしかない様だった。



『お前昨日の流星群見たか?』



相良にメッセージを送る、すると数秒もしないうちに既読がついた。



『南崎と見に行くってお前言ってたぞ?』



相良の返信に少しメッセージを打つ手が止まる、何故南崎と流星群を見に行ったのか……いや、そもそも予兆無しの流星群を彼女と見るのは不可能では無いのだろうか。



昨日の記憶が無い分一緒に居た可能性も捨て難いが彼女とは教室でよく喋る程度、一緒に帰るほどでは無い……しかも家は俺の家から30分は自転車で掛かる、つまり流星群降り始めにメッセージを飛ばして居たのでは間に合わない筈だった。



『ありがとな』



『おう』



相良とのトークルームを閉じると少し躊躇いながらも南崎とのトークルームを開ける、するとそこには前文は無く『昨日はありがとう』とだけメッセージが来ていた。



「昨日……何があったんだ?」



何に対しての礼なのか分からない、この1年間で南崎と遊んだ事は1回程度、しかも相良と遊ぶついでにあいつが呼んだのがきっかけ……色々な情報があり軽く混乱していた。



「ひ、一先ず整理するか」



大きく深呼吸をして状況を整理する、先ず昨日流星群があったのは間違いなかった。



そして次に顎に残る謎の痛み、そして流星群が降った日と被る様26日に振られた謎の丸……そしてunknowからの『さよなら』と言うメッセージ、相良からの南崎と流星群を見に行ったと言う証言……ちんぷんかんぷんだった。



何が分からないのか、先ずは26日振られた丸、これが流星群を示す事は先ずありえない、何度も言うが流星群は予兆無しで突然降り出した、つまり26の丸はまた別の意味を示している筈だった。



どれだけ考えようとも謎は深まるばかり、中間テスト前に余計な労力を使いたくは無かった。



「まぁ……何でも良いか」



南崎とのトークルームを閉じると携帯をポケットにしまい伸びをする、その時横に先ほど前を歩いていた白髪の女性が少し離れては居るがホームの端っこに居るのが見えた。



「確か荻上 烽火……先輩だっけ?」



綺麗な髪色に凛とした顔立ち、すらっとしたスタイルの烽火先輩に思わず魅入る、日向の方で本を読んでいる様子だった。



「あんな先輩居たのか……」



綺麗な人も居るもんだ……思ってもその程度だった、直ぐに携帯へと目線を移そうとする、その時読んでいる本のタイトルが目に入って来た。



「君恋……」



君に恋した35日、1000万部を売り上げた伝説的大ヒットの少女漫画、妹から借りて一年程前に見たが今となっては君恋の大ファンだった。



だが1000万部も売り上げた大ヒット漫画にも関わらず、学校に語り合える人が誰も居ない……それ故にいつもなら自分からは話し掛け無いのだが無性に話し掛けたかった。



椅子から立ち上がると少しずつ烽火先輩に近づく、すると途中で足音が聞こえたのか横目でこちらを見た。



「あ、おはようございます」



「おはよう」



澄ました顔でそれだけを言うと本にまた視線を戻す、近づいて気が付いたが君恋の最新刊、34巻を先輩は読んでいた。



「あれ、君恋の34巻って来週発売じゃ……」



主人公が夏休み最終日にヒロインと祭りに行き告白すると言うクライマックスの巻、待ちきれなくて頭がおかしくなりそうな程に楽しみな34巻を何故先輩が持っているのか……謎だった。



「先輩!」



「なに?」



「初対面で厚かましいと思いますが……読み終えたら34巻貸してください!!」



今までに出したことの無い声量でお辞儀をし烽火先輩に頼み込む、すると先輩は読みかけの本を閉じて涼に手渡した。



「あげる、だからもう関わらないで」



電車の来る音がホームに鳴り響く中、涼の耳元でそれだけを告げると去っていく先輩、その言葉に思考が止まっていた。



『間も無く電車が出発します……』



気が付けば電車はもうホームを出ようとしていた、涼は先輩から貰った本を片手にふらふらと電車に乗ると放心状態のまま電車に揺られ学校へと向かった。

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