第1話 チュートリアル

 キャラクターメイキングを終えてメアリー・アプリコットと名前を入力し終わると場面は真っ白な霧に包まれ、数秒のロード時間の後に現れた景色は船の甲板上だった


「お、始まったのかな。良い景色」


 空は青く、どこまでも続く水平線が広がっていた。景色を楽しんでいると不意にメッセージが表示される


”チュートリアルが開始されました。間もなくNPCの指導員がそちらに向かいます”


「NPCの指導員?」


 メッセージの意味が分からず首を傾げていると、メアリーに男が話しかけと来た


「よう、新入り!」


「えっえっと!すみません、どちら様で・・・」


”NPC(ノンプレイヤーキャラクター)。この世界にはプレイヤーが操るキャラクターの他に、AIが操るNPCキャラクターが多数存在します”


「なんだAIか、びっくりした」


”PC(プレイヤー)は注視した際に名前の下のバーが赤く表示されますが、NPCは表示されません。他のプレイヤーの迷惑にならないようによく確認しましょう”


「へー・・・」


 メッセージが表示された後、ゴルドンと名前が表示されたNPCの男が話し掛けて来た


「アナグノリシスは初めてかい?」


”NPCに特定の会話に答えるとシナリオが分岐します。肯定的に答えればチュートリアルが継続し、否定的な答えるとチュートリアルは終了します。誤認が無いようにはっきりと答えましょう”


「はい!初めてです! VRのネットゲーム自体も初めてで」


 メアリーの答えを認識し、ゴルドンは笑って応える


「ははは! それじゃあしっかりと教えませんとね」


「はい、お願いします」


「それじゃあ、俺について来て下さい。中で話しましょう」


”初期動作のチュートリアルに入りましたので一部の動作を制限します。まずはフットペダルの片方を踏み一歩踏み出してください”


「フットペダル? そんなのついてな・・・」


 メアリーは現実世界リアルで少し足に力を入れると、キャラクターは一歩踏み出した


「え!これただの足置きじゃなかったの!?」


”つづいて反対側のペダルを踏み交互に踏み出し歩いてください。早く連続で交互に操作すると走ります”


「こう?」


 メッセージの言う通りにすると、メアリーのキャラクターは真っ直ぐ歩き出した


「おお! 歩いてる歩いてる!」


「順調だね新人さん。じゃあついでに扉を開けてくれるかな?」


「ええ、分かったわ」


”ドアを開けるには、アームを操作しドアノブに手を当ててください”


「えっと、こうかな?」


 メアリーが輪郭が強調されたアバターの手がドアノブに触れるように操作すると、アバターがドアを開ける動きモーションをしてドアを開けた


「おっと!」


「きゃ!」


 ドアを開けると荷物を持ったNPCの男が立っていて、こう言ってきた


「すまないが退いてくれないか?」


「え?」


”キャラクターの向きを変えるには、肩パッドを操作し行います。右を向き為に右肩を後ろに引く様に動いてみましょう”


「肩にもそんな物がついてたの!? こうかな?」


 上半身を捻る様に動かすとアバターは右を向き、次のメッセージが表示された


”無事に成功しましたね。次はフットペダルを踵で後ろに引く様に操作し、歩く要領で後ろに歩いてみましょう”


「こうね!」


 言われた通りに後ろに引くと、ドアの前に居たNPCは礼を言って通り過ぎて行った


「ありがとな」


「いいえ」


 NPCが通り過ぎるとゴルドンはメアリーに話し掛けた


「歩く事分には問題ない様だな。俺は先に中に入って飲んでるから、準備が出来たら話しかけてくれ」


「わかったわ。自然なようで会話が微妙にメタいわね」


”今まで教わった事を駆使して自由に動き回ってみましょう。次のシナリオに進むには先ほどのNPCゴルドンに近寄って名前を呼び話しかけてください”


「自由行動か、いきなり階段なんだけど普通に歩いて平気かな・・・」


 下に続く階段に踏み出すと問題なく階段を下りる事ができた


「大丈夫そうね」


 階段を下りた先にあった扉を開けると酒場の様な場所に続いていた


「うわぁ、いかにもファンタジーな場所ね」


 酒場に入るとメッセージが表示された


”ここに居る多数のNPCには自由に話しかける事ができます。相手はNPCですが風紀を乱す行動や不適切な言動は控えましょう。皆が楽しめる世界観を保つ為にご協力ください。詳しくは利用規約のマナーについてをお読みください”


「よっぽど変な事をしなければ平気って話だったわよね。試しに誰かに話し掛けてみようかしら?」


 カードをしている船乗りNPCを見つけ話しかけてみた


「こんにちは」


「よう嬢ちゃん。おまえさんも加わるか?」


「トランプみたいですけど、何のゲームをしてるんです?」


「ポーカーだよ。見るの初めてか? 何なら教えてやるよ」


「いえ、結構です。始めるとまためんどくさそうだし・・・。あ」


 バーカウンターの方を見てみるとゴルドンが飲んでいた


「なんか下手に話すとまたチュートリアルが始まりそうだしもう話し掛けちゃおう」


 メアリーはゴルドンの所まで歩いて行き話しかけた


「ゴルドンさん」


「おう、来たな! まあ、座れ!お前も何か飲めよ、奢るぜ!」


”ゴルドンの隣の席に手を置いて座りましょう”


「これは強制なのね」


”座る事が出来ましたね。ショップの利用法の練習として次はバーテンダーに話し掛けてメニューをもらいましょう”


「バーテンダーさん!」


「はい、注文は何になさいますか?」


”もらったメニューの中から好きな飲み物を1つ注文してください。アイテム名を覚えていれば直接名前を言って注文する事が出来ます”


「えっと、リンゴジュースをお願いします」


「かしこまりました。どうぞ」


「直ぐに出て来た! さすがゲーム」


 リンゴジュースが目の前に置かれ次のメッセージが流れる


”コップを掴み口元に近づけると飲む事が出来ます。試してみましょう”


「こう?」


 メッセージの通りにするとアバターは飲む動作をしたのだが


「当然だけど味も何もないわね。雰囲気はあるけど・・・」


 何となく自分も喉が渇いて、メアリーはリアルでアームから手を離し、VRユニットの下半分を開けて視界を確保し、ドリンクホルダーに刺してあったミネラルウォーターを手に取って口にふくんだ。するとタイミングよく船の警笛が鳴る


「ブオオオオオオン」


「なに?」


 急いでアームを握りゲームを操作する体制に戻ると、ゴルドンは言った


「港に到着したみたいだな」


「港?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る