3人
今日も学校。いつも通りに適度にノートをとりながら、ときどき窓の外を見て過ごす。何かを思う訳では無いが、悪くない時間だと感じる。
そういえば、今日は島中さんって人と会うんだったな。確か部活を作りたいとか。
作らなきゃいけないってことは、やる人が少ないことで、今は学校にない、という条件があるが、思い当たるようなものは特にない。
運動部でも王道的なバスケ、野球、サッカー、テニス、陸上、水泳、柔道などはあった。
文化部でも軽音部、演劇、吹奏楽、美術、新聞などもあったはずだ。個人的に帰宅部もこの中に入れてほしい。ありえないが。
まぁ考えても答えは出ない、話を聞いてみよう。
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昼休みになり、俺は昨日と同じように、購買で鮭おにぎりとコロッケパン、カフェオレを買った。そして屋上へ行き、桜井さんを待つことにした。
5分ほどたち、出入口のドアが開く、
「あ!憂依くんいたよ。花凛ちゃん!」
桜井さんが後ろに呼びかけながら出てくると、後ろから黒髪ポニーテール姿の女の子が現れた。
「君が榊くんか。私、島中花凛です。よろしく」
「あ、はい、榊です。よろしく」
礼儀正しくお辞儀する島中さんにつられて、俺も頭を下げる。
「えっと、流子ちゃんから話は聞いたと思うんだけど···」
「うん、部活を作りたいって話だろ?」
「そうそう!花凛ちゃん話してあげてよ」
「うん、私が作りたい部活はね······ボランティア部、なの」
「ボランティア?ボランティアって、あの?」
「どのかわからないけど、多分あってるよ」
「どんなことするの?」
「内容は想像してるのとそんなに変わんないかな。地域での清掃に参加したり、イベント企画手伝ったり。ひとつ違うのは、学校内でも活動するってことかな」
「なるほど、そりゃなかなか人集めが大変だな」
「え?」
「ボランティア、学生が進んでやりそうもないことだ」
「そう、今の一番の問題はそれ。今入ってくれるって言ってるのは、桜井さんだけかな」
「へぇ、桜井さんは入ることにしたんだ」
「うん!私も別にやりたいことなかったし、花凛ちゃんは高校で初めてできた友達だしね!」
「できたらそういうのは無しでお願い。流子ちゃん」
「わかってるって、人の役に立ちたいってボランティア精神に心を任せてみるよ」
「そう、それならよかった。嫌なのに参加してもらってもボランティアの意味なしだからね。あ、それでどうかな、榊くん。もちろん断ってくれてもいいからね」
「そうだな···。まぁ人が足りないんなら、入るよ」
「いいの!?」
「ああ」
「場合によっては休日返上かもしれないよ?」
「休日も特にやることないしな、別にいいよ」
「ありがとう!助かるよ!よーし、これで部員3人だ!」
「って、なんで私より先に流子ちゃんがお礼言うの!?」
「あはは、紹介する立場だったから、どうなるのか少し緊張してたんだよねぇ」
「なにそれ」
3人で笑いながら、俺は桜井さんが以前話していた「名前の意味」が少しわかった。流子に使われた、流という漢字についても。
「それはさておき、あと一人ってことは、部員は4人必要なのか?」
「うん、規定で4人以上じゃないと部活としては認められないって」
「へぇ、もう誰かあてはあるのか?」
「ぜーんぜん。さっき言ったように、みんなボランティアやりたがらなくってさ」
「ん、まぁ当然か。普通なら好きなことしたいしな」
「でも今日は榊くんのおかげで本当に助かった!ありがと!」
「ああ。ふたりとも、これからよろしくお願いします」
「うん!」「こちらこそ!よろしく」
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あの後も普通に授業を受け、放課の時間となった。家に帰りながら、昼休みのことを思い出していた。
ボランティア部か···俺がなぁ…。
なんにしろ、部活に入るんなら親父に言わなきゃ、だよな···。
玄関の戸を開け、「ただいま」と一言。返事が返ってくることは無い。
母の死から10年、親父は俺を養うために仕事ばかりになっていったからだ。
俺のためとわかってはいても、幼少期の俺に、誰もいない家に帰るのは少しきつかった。
今ではもう慣れたものだが、俺と親父の間には、大きいという程ではないかもしれないが、確かな溝ができていた。
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