誘い

朝、いつも通りに学校に行く。


家にいたって何もしないし、それなら席に座っていた方がいい。毎朝そんなことを考えながら俺は歩いていた。




学校に着き、席に座ると


「よぉ、今日も覇気のねぇ顔してんなぁ」


と話しかけてくる奴がいた。こいつは森田歩。


誰からでも話しかけられ、話にいけるような、クラスの中心にいそうな人物だ。




「お前、どの部活に入るのか決めたのか?」


「いや、特にやりたいこともないんでな」


「ふーん、でもそろそろ決めないとまずくね?入部届けの提出までもう1週間もないぞ」


「そうだな。ま、何かテキトーな部活にしとく」




「おーい、あゆむ〜」


クラスメイトに呼ばれ、歩は


「ん?なんだろ、、とりあえずいい機会だし、楽しそうな部活探してみろよ!」


そう言い残し、クラスメイトのところへと向かった。


歩とはなぜか昔から縁がある。家もそこそこ近く、幼稚園から今まで一緒の進路になっている。おまけに今は同じクラスだ。そしてなぜかあいつは俺のことをちょくちょく気にかけてくる。なぜなのか本人に聞いてもはぐらかされるので、俺もあまり深くは追求しないことにした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


午前の授業を終え、昼休みになった。


俺も父も弁当を作るということをしないため、高校では主に購買に世話になることだろう。購買では争いが起こるため、なるべく早く行かなくてはならない。ということはなく、うちの購買は平和だった。


焼きそばパンとコロッケパン、お茶を買った俺は、教室へと歩く。前を見ると、向こうから歩いてくる見覚えのある姿。桜井さんだった。


俺が気づくとほぼ同時に、桜井さんも俺に気づいたようだった。


「あ、憂依くん」


桜井さんは俺の手元を見て、


「あ、購買に行ってたんだね。私も今から行くとこだったんだ!」


「そっか、お弁当とかじゃないんだね」


「あはは、今朝はちょっとギリギリだったから。そだ、こうして会ったことだし、お昼一緒に食べようよ!」


「別にいいけど···」


「まだそんな仲良い人もいないし、憂依くんとは昨日たくさん話したしね。じゃあ私もご飯買ってくるね」


「うん、じゃあここで待つよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


桜井さんの提案で、お昼は屋上で食べることにした。




柵の外を見ながら、桜井さんは


「風が気持ちいいねぇ〜、屋上でご飯食べるの、憧れてたんだぁ!」


と言う


「へぇ、どうして?」


「だって、ドラマとかでよくそんなシーンがあるから」


···それって後々恋人同士になるやつじゃ···まぁいいか。


「お腹減ったし、早く食おう」


「うん、私も体育あったからお腹ペコペコだよ」




「そーいえば聞くの忘れてたけど、桜井さんって何年何組?」


「ん?私は1年3組だよ。憂依くんは?」


「俺は1年2組。隣のクラスみたいだな」


「うん、残念だね。一緒ならよかったのに」


「だな。でも桜井さんなら友達くらいすぐできるよ」


「そうかなぁ、今は友達って呼べる人、憂依くんの他には一人しかいないよ」


「へぇ、どんな人なんだ?」


「女の子だけど、頼りになって、すっごい話しやすいんだ!島中さんって言うんだけど、よかったら今度紹介するよ?」


「いいのか?勝手に決めちゃって」


「いいと思うよ。昨日のことはさっき話して、憂依くんと話してみたいって言ってたし。あ!そうそう!憂依くんさ、もう部活なににするか決めた?」


「え?いや、まだだけど」


「そっか!よかった。島中さんが部活作りたいって言っててさ、あした話だけでも聞いてもらえないかなって···。どうかな?」


「ん、まぁ特にやりたい部活もないし、入部するかはわからないけど、それでもいいなら」


「ありがと!じゃあ後で本人に伝えとくね!」




「って、話してたらもう昼休み終わっちゃうね」


「ん、もうそんな時間か。次は掃除だったな」


「遅れると委員長に怒られちゃうから、私もう行くね」


「ああ、誘ってくれありがとう。楽しかったよ」


「うん!私も楽しかった。またねぇ!」




桜井さんを見送り、俺も立ち上がる。




あの楽しい気持ちがどこから来たのか、この時の俺はよくわかっていなかった。


いつも通り、まぁいいかと深く考えなかった俺は、後片付けをゆったりしすぎて、皆から注意されてしまった。

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