怪物

私には見える、あなたが見える

美しいあなた、凛々しいあなた

どうしてそれほどまでに皆を虜にするの?

私だけがそうであればいいのに

誰にでも優しくて誰にでも好かれてる


あなたには見える?私が見える?

愛しい私、憎らしい私

他の誰かと一緒じゃない、私に意識を向けて?

あなたが私だけを見ていればいいのに

いつも誰かと居て私だけの人にならない


勇気が無くて声を掛けられなくて、でもあなたを見ていたい

誰かが私を揶揄する、釣り合わない身の程を知れって

だけど見るのは自由、だから想うのも自由

誰にも迷惑はかけてない、あなた達に何かしたわけじゃない

存在して、見ている

それは彼女達と変わらない

だけど私は嘲笑(わら)われる

醜い怪物の子供だから?汚い身なりの異形だから?


違う、私だって人

容姿が少し醜いだけ、襤褸(ぼろ)を着て少し汚いだけ

あなた達に嘲笑される理由は無いわ

あの人を想うことを咎められる理由は無いわ

手を伸ばして、触れようとしたことは一度だってない

ただただ遠目に密かに想っているだけ


そんな時あなたが何処かへ消えてしまった

何故?何処へ?

誰も理解する者は現れなかった

誰かが一人、何処かの誰かがこう言った


『あの怪物の子が喰ってしまったんだ』


何を言っているのかわからない

私は人なんて食べないのに

その一人の言葉で民衆は扇動された

あいつが喰った、あいつが攫った、あいつが殺した

あいつがあいつがあいつがあいつがあいつが

違う!違う!違う!違う!違う!

私こそあの人の場所を教えてほしいのに!

あの人に何かあったのなら私が助けに行きたいのに!

間違いを訴えた

そんな事実はないと、彼の居場所は知らないと

しかし誰も聞き入れてはくれない

ただでさえ生きづらい世界だったのに拍車がかかり外に出ることさえ難しくなった


私はその日から家を出なくなった

彼がどうなったのか、外がどうなったのか

全てを知ることなくこの屋敷に留まっている

ああ、神様が存在するのなら問いたい

何故、私を産み落としたのか

何故、彼を想うようにお創りになったのか

何故、このような扱いを受けねばならないのか

ああ、ああ、答えは分からず私は一人の人生を続ける

自ら命を絶つことも出来ず、ただ生活を続ける日々


あれから幾日経っただろうか

屋敷の玄関が数回ノックされた

何かの間違いだろうと思い無視しているともう一度、数回ノックされた

玄関へ向かい扉を開けるとそこにはあの人が立っていたのだ

生きていた、ただそれが嬉しかったのだが様子がおかしい

身なりはほとんど彼なのだがフードを目深に被り顔を隠している

彼がフードに手をかけると思いもよらない光景が待っていた

あの凛々しい顔が、あの端整な顔立ちが

醜く汚くまるで怪物のようになっていた

彼は震え涙ぐみ何も言わず屋敷へと足を踏み入れた

私は拒まず彼に寄り添った

食事を作り、衣類を整え、寝床を確保する

あの彼が私のような怪物へと変貌していた

何が原因なのか?どうして私の元へ来てくれたのか?

そんなことは小さな問題なのだ

彼にはもう私しか居ない

こんな姿では周囲の人間に迫害される

親類縁者にも会えるはずがない、だから消えたのだ


これであなたは私の物

二度と外へ出ることもなく、二人きりで愛し合いましょう

経緯や発端なんて知らない、どうでもいい

あなたが私の手中に収まってくれたのだから

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