蒼天

明日、俺たちは飛ぶ。

どこか遠くの空へ、あの蒼い空へ。

技術を頭に叩き込み、覚悟を決め飛ぶ。

全員で何人居るか俺にも分からない。

彼らは各地で蒼天を目指す。

この地からは十人程だ。

数ヶ月間、いや一年は一緒に過ごしただろうか。

友として、仲間として失いがたい絆を育んだ。

一人は家族を置いて、一人は恋人を置いて、また一人は家業を捨て。

彼らには守るものがある。

帰る方がいい、こんなところに居てはいけない。

俺にはそういうものがない。

家族は居ない、恋人も家業も無い。

根無し草でただ生きているだけだ。

そんな俺が何かの役に立てるんじゃないかと思ってここに足を運んだ。

同士達は俺のことを羨ましいと言う。

失うものの無い俺はさぞかし強く映るのだろう。

守る者が居るわけでもないのにここにいることがさぞ高尚に思えるのだろう。

違うんだ、そうじゃないんだ、自分の生きる意味も理解できずにただこの世に居るのが恐ろしく虚無を感じているんだ。

怖いんだ、悲しいんだ、己の生が無意味だということに気付きたくないんだ。

わかっている、自覚している。

それでも何かしら意味を見出したくて志願した。

他の者達は誉れだと、英雄だと送り出されてここにやってきている。

俺とは違う、強いのは彼らのほうだ。

彼らは守るため、俺は意味を見出すために。

虚しい生だと思う、俺の命でこいつらを帰すことが出来るならいくらでも支払おう。

しかし、そうはいかない。

俺個人の命に何がある、どんな価値があるんだろうか。

根無し草の命に存在の意味が無い。


月を見上げる。

欠けた月が美しい。

欠けた部分が俺のような命だ。

美しさを引き立たせるための存在。

生きている意味なんて無いのかもしれない。

影として、闇として、何かの礎として生きていく。

いや、そうやって生きていけるのであればまだ良い。

俺は礎にもなれない。

そんな人生が嫌でここに来たと何度自分に言い聞かせたか。

飛ぶ前夜になって俺は生に執着している。

生きる意味が分からないのに、存在に意味を見出せないというのに卑しく生へ執着してしまう。

愚か者だ。

飛んで意味を見出そうと、意味があったのだと証を残そうと考えていた最初の俺は何だったのだろう。

格好つけていただけなのかもしれない、一瞬でも意味を見出して生きていたのかもしれない。

不毛だ、この考えは堂々巡りだ。

かといって逃げる勇気も無い。

俺は馬鹿だ。

どうあがいても馬鹿なのだろう。

明日望む蒼天で変わるだろうか。

同士は眠りについただろうか?眠れないだろうか?

彼らと共に飛び立つ明日を心から切なく思う。

ああ、覚悟など無いが覚悟しよう。

生への執着など、愚かなものだ。

終わろう、このまま俺は風になる。

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