博士
私は植物学者だ。
現在はとあるジャングルに実地研究をしている。
新種が発見され様々な研究機関がここに滞在しているのだが、私は一個人でここに居を構えた。
物好きなスポンサーのおかげで一人で気ままにやれている。
滞在期間は決まっていない。
スポンサーも気が済むまで居て構わないとのことだった。
タダより高いものはないと極東の諺にあるのだが、それはそれで構わない。
植物に携われるならなんでもいい、命がとられるわけでもあるまいし。
今日もジャングルを歩く。
実際にその新種を目にした人間は少ないという。
実物はここから離れるとたちまち枯れ、そして灰となってしまうという。
そのため確認のために現地を訪れるしかない。
実しやかに囁かれる噂があり、どんな万病にも効くだの、不老不死になれるだの、眉唾な話が流れている。
一部の政治家や権力者が研究機関を使い噂の真偽を確かめようとしているとかいないとか。
探究心だけでここに訪れているのは私だけだろうか?他に話す人間も居ないまま数ヶ月が過ぎた。
ここ最近ジャングルを歩いていると視線を感じる。
同業者なのかそれとも野生動物か、襲ってこないということは警戒されているだけのようだ。
万が一のために拳銃は携帯しているが出来れば使いたくない。
不慣れということもあるが動物であれば生態系に干渉してしまうのは極力避けたい。
私たちのような部外者が荒らしてはいけない。
同業者が何をしているかわからないが不干渉で通す。
お互いに侵害せず、出会っても何も無かったことにする暗黙の了解が出来上がっている。
周囲を警戒しつつ仮宿へ帰る。
周辺に着いても着いてきているようだ。
振り向いても見えない。
まあいいか、害が無ければ問題ないだろう。
周囲への警戒を怠らずドアノブに手をかけ捻る。
何事も無く室内へ入ることが出来た。
用心のために鍵を閉める。
ホッと一息つけリビングへ向う。
お湯を沸かしインスタントコーヒーをカップへ入れる。
ジャングルなのにホットと思うかもしれないが室内は空調も効いているので美味い。
スプーンで溶かしながら煙草に火をつけ一口吸う。
煙を肺に入れ味わうように息を吐く。
この不健康こそ私の健康の秘訣だと勝手に思っている。
すると窓から物音がした。
危機の可能性もある、拳銃に手をかけ窓へ近づく。
日が暮れている。
野生動物なら獰猛であるかもしれない。
カーテンに手をかけ勢いよく開けるとそこには地味だが凛々しい顔立ちの孔雀だった。
迷い込んだのだろうか、それとも私についてきてしまったのだろうか
どちらにせよこのままは忍びない
孔雀は羽を仕舞い目をつぶっている
どうしたものか、羽毛に変わりがないのなら寒さはないのだろうか
仕方ないので毛布を掛けた
健やかに眠る孔雀を見て室内へ戻る
研究対象を増やそうか、明日からこの雌の孔雀をゆっくり見るのも悪くない
明日には居なくなっているだろう
野生動物というのはそういうものだ
少し温かい気持ちになった、とても久しぶりにうれしかったよ
ありがとう、名も無き孔雀さん
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