大丈夫
「大丈夫」
あなたの口癖です。
何があってもその言葉を残して行ってしまいます。
最初は心配でした、少なくとも他の誰よりも心配していたと思います。
傷ついても、倒れても、笑顔のままで居たあなたを見ていて落ち着きませんでした。
あれは周りを安心させようと思っていたんですね。
時間を置いてやっと理解しました。
あの時の私は怒っていました、そんな状態になってもヘラヘラ笑っているあなたを。
強がりだった、本当は怖かったんだと思います。
それでも必死に
『自分は大丈夫だから、この場は大丈夫だから』
と、笑顔を絶やさなかった。
周囲の人々はあなたを称えました、勇敢な者だと強き者だと。
でも私は知っていました。
周囲が思うほどあなたは強くない、勇敢ではなく優しい人なのです。
傷つけたくない、でもそれよりも傷つくのを見ていられない。
なぜあなただったのか、どうしてあなたでなければいけなかったのか。
今でもそう思っています。
『大丈夫』
困難に立ち向かうなどという生易しいものではありませんでした。
私はあなたが怒っているのを初めて見ました。
長い間一緒に居ましたが自分の意思で暴力を振るっていましたね。
顔は見えませんでしたが声でわかりました、普段のあなたではない、『大丈夫』と言っている優しい声ではありません。
最初とは違う不安が私を襲います。
あなたがあなたでなくなってしまったら?私の手の届かない何かになってしまったら?
こんなときでも私は私の心配でした。
あなたを失いたくない、離れてほしくないといった心配です。
でもあなたは戻ってきた。
傷だらけで、泥だらけで、でもくしゃっとした笑顔で帰って来た。
安心して、嬉しくて、泣きながら抱きしめました。
あなたも応えるように強く、そして優しく抱きしめてくれました。
あなたなら大丈夫、何があっても変わらない。
『大丈夫』
あなたが出て行って数年経ちました。
清清しく優しさに満ちたいつもの笑顔でした。
傷つくのがわかっていて、誰かを傷つけることが分かっていての旅立ちです。
それも一人で、誰も連れずにたった一人で。
今回は戻ってくると約束はしてくれませんでしたね。
全てを片付けたらそのまま旅に出ると言っていました。
いつ帰ってきても良いように部屋の掃除は欠かしていません。
今日も快晴で気持ちが良い陽気です。
こんな日にはあなたの大丈夫が聞きたいと思ってしまいます。
でもあなたの口癖は私のためだけのものではないのでしょう。
この青空の中、どこか別の場所で誰かの笑顔のために笑顔で口癖を言っていると思います。
それでこそあなたなのだと思うことにします。
あなたと出会えて良かった、また会えることを祈って日々を一所懸命に生きて生きたいと思います。
「大丈夫」
いつの間にか私の口癖にもなっていました。
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