孔雀

彼は研究者だ。

ただ私には何を研究しているか分からない。

私は彼に恋をした。


出会いは森の中。

この人を見たときに恋をした。

目が合った、というよりは一目見て落ちた。

人間と孔雀。

相容れない、愛し合うことも出来ない彼に恋をしてしまった。


種としては壊れているのだろう。

交尾も出来ない、言葉すら交わすことが出来ない、なのに恋をした。

始めて見た人間だから、ということはない。

今までにも見たことはあり、その人間達には何も感じなかった。

異質な生物がここに居る、そう思っただけ。


でも彼は違った。

綺麗な金髪、精悍な顔、何より気に入ったのは碧眼だ。

蒼穹のように澄んだ瞳。

この瞳の中で飛びたい、そう思うほどに美しかった。


そこから私は彼についていった。

彼は何度かこちらを振り返る。

何かを言っていたようだが私にはわからない。

理解できず首を捻る私を見てため息をついていたのを覚えている。

しかし追い返すでもなく、逃げるわけでもなく、ただただため息をついて歩みを進める。


遠くに木で作られた建物が見えた。

どうやらここが彼の巣なのだろう。

どのようなところに住んでいるかを見ておきたい。


少し目を離した内に彼が消えた。

どこに行ったのだろうか?先ほど居た場所に向かうとわからない。

この巣の周りを見て回ると透明な壁の中に彼が居た。

空は暗くなり始めた。

中に小さな太陽のようなものがありそれが巣の中を照らしている。

彼は何かを真剣に見つめている。

私の視点からは何も見えないが顔が少し見えた。

彼の顔を見ているだけでよかった、瞳が見えると尚よかった。

うとうとしてくる。

日が沈んでからしばらく経つ。

ここから巣へ帰るのは面倒なのでここで寝てしまおう。

彼のそばに居られるなら寒さなど気にはしない。

おやすみなさい、名も無きあなた。


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