カルカロという男

荒れた市街地、ここはスラムの一区画。

牛耳るのはマフィアのボス、ドン・カルカロ。

殺しから薬まで何でもやり、何でも手に入れた男。

彼の信条は使える者はなんでも使う、例えそれが死体でも。

死者への冒涜という言葉は彼には無い。


「死んだら物だ、冒涜もクソもねえ。そんなつまんねえもんは野良犬にでも食わせとけ。」


こう言っている。

彼の傘下の者ですら鬼畜と呼ぶほど徹底している。


彼がここまでになったのには原因がある。

よくあることだ、彼の父親がこの信条で生きていたのである。

しかし、憧れで行動しているのではない。むしろ憎しみによってこの信条を掲げている。

その男がカルカロを作った理由は使える駒が欲しかったから。

母親に対しての愛情等は無く、あるのは己の性欲処理、そして子を作る道具、この二つだけだ。

育てられているときには気付かなかった。教えられる技術は盗みや殺しなどの実働部隊としてのもの。ドンとしての力は何一つ残そうとしなかった。

しかしある時からカルカロの中で違和感が生まれる。そのきっかけは母親の死だった。

それ自体はあり得る話なのだが、死因がおかしかった。

カルカロが寝ているときに口論が聞こえた。それは父親と母親のものだった。それが銃声に変わった。襲撃を受けたわけではなく男が女を殺しただけだった。

理由はわからないものの殺したという事実だけが残った。

その後、葬儀は行われずにカルカロには


「母親は出て行った、お前は今後一人で生きるんだ。教えた技術を使い俺の下で働け。死にたくなければ使い道のある人間になれ。」


と言い、有無も言わさずマフィアの一員にされたのである。

未だに理由を知ることが無い。彼は知らなくて良いと判断したのだ。ここに登りつめるための糧、そう死者さえも使い潰したのだ。

彼は待った、父親が死ぬのを。殺すための策も練ったのだがマフィアの世界、彼が動かずとも父は勝手に死んだ。鉄砲玉による殺害だった。その鉄砲玉の出所は身内からであり、二番手と噂されていた男の差し金だった。

カルカロはこれを好機と見る。その男を己の手で仕留めたのだ、父の仇として。

もちろん憎しみではない。彼の踏み台として父をその男を使ったのだ。

周囲の構成員もあのような外道とはいえ父親を思い仇を討った彼を大いに称えた。

こうなれば反発は生まれることは無い、父の信条を受け継ぎそれで居て情に厚い男を演じたのだ。


ここから先はとんとん拍子に事を運ぶことが出来た。

彼は跡目を継ぎ、そっくりそのまま勢力を手に入れたのだ。

父に足りていなかった部分は『情』だということが明白だった。それを持つ者が息子でそれでいて父同様に才能を発揮さえすればあとは容易だ。血統も才能もあり情にも厚い。ボスとしての器はここに揃っているように見せた。


ここから彼の覇道は始まる。


しかし彼は母親について誰かに語ったことは無い。

母を愛していたから父を殺した、これを見た読者はそう解釈をすると思う。

もちろん話を聞いた自分も最初はそう思ったのだが、真実は明らかにされていない。

彼が真に『情』に厚いかどうかはわからない。

だからこそ彼のことを追い続ける、一記者として、一人の人間として。

性善説を解く者としては俺を救ったこの男にそれを信じたいと思っている。

今後彼の事を書くことがあったら感想を聞かせて欲しい。

連絡先はこの文章の最後に記しておく。


電話番号○○○-××○-△△


著:リカルド = カサモラータ

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