Episode14 「悪魔の救世主」

プリュスの街を離れて数時間が経過し、シュウとツバキは特に話もせずに目的の街 プロスへと足を進めていた。

プリュスを出発した時は草木が茂り、舗装された道が多かったものの、プロスに近づくにつれて足場は悪くなり、枯れた木や廃墟等が辺りを占めていた。

「まだ聞いてなかったけど、君はどうしてこの世界に?」

黙々と歩いているシュウに、多少疲れの見えるツバキが声をかけた。

「爆弾を解除しようとしたら死んだ。それだけだよ。」

「とんでもない死に方をしているね…。」

「そういうアンタはどうやって死んだの?」

ずっと前を見ていたシュウがツバキに顔を向け、ツバキは道着の内側から一枚の写真を取り出した。そこには黒髪のショートボブで、いかにも物腰柔らかそうな女性が桜色の着物を着用して、ツバキと共に写っていた。

「僕は生まれた時から剣の才能があると見なされて、物心がついた時から剣術の修行ばかりしていた。その修行の日々に出会ったのが、この葵だった。葵は僕の疲れた心を癒してくれた唯一の存在で、僕が全ての修行を終えた日には彼女と結婚する約束までしていたんだ。そして、成人を迎えた時に僕は修行から解放されて、彼女が経営する旅館で暮らすことになった。」

ツバキは写真を再度、道着にしまい、拳を握りしめて唇を噛み締めた。

「だが、彼女と結婚式を挙げる前日、僕が旅館に帰ると部屋は荒らされ、葵は血を流して倒れていた。僕は死に際に葵からこの写真を受け取り、僕の膝の上で死んだ。その後の調べで数人の強盗グループの犯行だとわかり、逮捕されたが、僕は精神を酷く病んでしまってね。自暴自棄となり、情けないことに自殺をしてしまった。…そして今、ここにいるというわけだよ。」

「じゃあ、アンタの願いって…。」

「葵を蘇らせること。僕が元の世界に帰れる保証はないが、せめて葵だけでもとね。」

俯くツバキにシュウは言葉をかけることもなく、顔を前に向けて歩き出した。

「ところで、君はなぜ僕の話を聞いてプロスへ…?」

「俺にも昔、家族と呼べる仲間がいた。犯人はカイトという連続殺人鬼で、奴は俺の親友のドックタグをなぜか盗んでいった。俺は家族が死んでから、世界を巡り、奴を探したが、ある日に奴が死んだとの情報を受け取った。…けど、奴も死後に俺達のようにこの世界に転移していたとしたら。」

「そうか!君は僕が見た認識票はそれだと…!」

「全て推測だけど、行く価値はあるよ。」


プロスと思わしき地へと足を踏み入れたシュウとツバキは、木の陰から様子を見て、人気がないかどうか確認する。

「どうやら外には誰もいないようだ。それにしても、酷い有様だな…。」

ツバキの言う通り、ここは人が住んでいるとは思えないほど荒れていた。地面は乾燥して亀裂を起こし、家屋は穴が空いていたり、屋根が吹き飛んでいるのもあった。

「こんなとこに奴がいるの?」

そう話していると、死角となっていた家屋から人が沢山出てきて、ロープで縛った一人の男を村の中心部に置いた。その男を数十人の村人だと思われる人々が囲み、男は彼らに向かって叫んだ。その叫びにシュウとツバキは茂みに隠れ、様子を見ることにした。

「お前らは間違っている!あの転移者は救世主なんかじゃない!奴は、俺たちを利用しているだけだ!!」

だが、村人達は聞く耳を持たず、男の首に鎖を括りつけて、処刑台の上に吊るした。男は鎖の内側に手を入れて空気を確保していると、建物の陰から灰色のローブとフードを見に纏った背の高い髪の長い銀髪の男が、吊るされている男の顔を掴んだ。

「裏切り者は処刑するしかない。」

「貴様ッ!お前の目的はなんだ!!俺たちを洗脳して、一体なにをするつもりだ!!」

「これから死にゆく者には関係のないこと。…さらばだ。」

男の腹部に手を当てて、その手の隙間から閃光が溢れる。発射される寸前に男を吊るしていた鎖が飛んできたナイフによって裂かれ、男を台の上へと落とした。

「シュウ…!」

茂みに隠れていたシュウが飛び出し、村人達は彼に立ち向かうように隠し持っていたナタや斧を取り出した。

「お前は…。」

「アンタが、俺の家族を殺したヤツか?」

フードの男は微かに笑い、顔を隠していたフードを外した。

「やはり転移していたかァ。シュウ君。」

「ってことは、アンタがハルト…。」

シュウは腰のガンベルトに手を伸ばし、グリップを掴もうとする。

「待ちたまえ。ここでやるのも悪くはないが、私の大切な信者達を危険に晒したくはないからな。…場所を移動しようか。」

シュウはハルトの跡を警戒しながらついていき、ツバキもそれに伴って静かに移動を開始した。


「さあ、やろうか?」

両手をあげて余裕そうな表情を浮かべるハルトに対して、シュウは厳格そうな顔で背中に背負っている特典アイテム〝シヴァ〟を外して手に構えた。

「それと、そこに隠れている君も出てきたらどうだ?」

ハルトはシュウの背後の茂みに隠れていたツバキを見抜き、これ以上隠れているのは不可能だとツバキは気付き、シュウの横まで歩いてきた。

「その風貌…。お前がツバキか。」

「カイトにでも聞いたのかい?…今までの話だと、君がシュウの追っていた認識票を持つ殺人鬼というわけかな。」

「認識票…?あぁ、アレか。」

ガンベルトに吊ってある銀色のドックタグを外し、シュウの前で見せる。

「何故かは知らんが、この認識票だけ持っていてな。お前が私の目の前にいるということは、やはりお前とは戦う運命なのだろう。」

「あの時の俺は自分の力不足で家族を失った。けど、今の俺ならアンタを倒せるだけの力がある!この特典アイテムと、俺が積み上げた実力をもって…!!」

ハルトにシヴァの銃口を向け、轟音と共に砲撃のような一撃がハルトへと向かっていく。直撃するかと思われた攻撃だが、ただの裏拳によってシヴァの砲撃はいとも容易く弾かれてしまった。

「これが実力か?」

弾かれた砲撃は村の半分を消し飛ばし、爆風によってシュウとハルトのローブが靡く。SIG SAUER P226に酷似した銃 〝フォンス〟のグリップを曲げて銃身と水平にし、銃口から白銀のレーザービームを射出させて剣のような形へと変形させた。

「まだだァ!!」

フォンスを右手に構えてハルトへ斬りかかるが、まるで空中に舞う紙切れのように回避し、シュウの右腕を掴み、肘で水月を打った。

ただ肘で打たれただけなのに、シュウの全身にはハンマーで叩かれたかのような衝撃が走り、遠方へと吹き飛ばされる。

ハルトはその様子を唖然として見ていたツバキの背後へと瞬時に移動し、拳による一撃で背中を狙うも、気配を察知したツバキは振り返り、腕をクロスさ せて防御する。

「戦えよォ。」

腕が折れるのを懸念したツバキは間合いをとり、左手で特典アイテム〝紅葉〟鍔を下げた。

「ツバキィ。お前となら面白い戦いができそうだなァ?」

地面を蹴り、ツバキの顔めがけて蹴りを繰り出すが、鞘から抜刀した紅葉の峰が直撃を避けた。

「君はなぜプロスを拠点にしているんだ…!?」

「そりゃあ、ここが一番居心地がいいからだろうなァ。…この世界はいい。転移者だってだけで他の連中からは崇められ、その強さに女は寄ってくる。それに実力行使のこの世界では、誰も私を止めることはできない!!」

「あの村の人達は君が洗脳したのか!?なぜあんなことを!?」

「この村は私が初めて転移した場所だった。私がいた当初は盗賊や権力者によって生活が脅かされていたが、私がこういったら全てが変わったよ。」

ツバキは紅葉を持つ手に力を入れ、ハルトの足を弾いた。

「〝私があなた方の救世主になってあげよう〟とね。それから私は人々の悩みを全て解決し、従順なる信者が増えていった。」

「どうして…!何の目的でそんなことを!!」

「このバトルに勝ち抜くためには一人の力では生き残れない。そこで私は考えたのだ。ならば、私の下僕となる兵士を作り上げればいいとな!」

拳を握りしめるハルトに攻撃態勢を取り直したツバキだが、ハルトの頬に一筋の弾丸が走り、頬にできた傷から血が垂れる。

「…そいつは俺がやる!!手をだすな!!」

砂埃で汚れたローブを脱ぎ捨て、グロウの軍服へと服装を変えたシュウは、今までに見せたことのない怒りの形相でハルトにフォンスの銃口を向ける。

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異世界に居続けたい最強戦士と帰りたい凡人 鍋田 リューマ @ryuma1231

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