Episode11 「一撃ガンマン」
「アンタが転移者……!?」
ユウスケは指輪型特典アイテム グランディールからナイフを伸ばそうとするも、手に力が込められずに失敗に終わる。
「まあね。……けど、そんなに驚くこと?今までだって会ってるでしょ?」
「そうだけど……。」
ユウスケの脳裏には自身を圧倒的な実力と恐怖で追い詰めたブラストと、我が身を挺してまで逃がしてくれたツバキの姿が浮かび、このフウカという転移者はどちらに当て嵌る転移者なのか考えていた。
「あー、なるほど。今、君は私がとんでもない残酷非道な転移者の方なのか、君と利害が一致して協力してくれる転移者の方なのか考えてるんでしょ!?」
(なんでわかるんだ……!)
動揺するユウスケの体をフウカが支えた。
「君みたいにわかりやすい人の心理なら簡単に見通せるわ。……それで、どうする?私と一緒に来るか、それともここで私と戦うか……。」
(……もし、この子がブラストのような転移者なら、さっきのディユとの戦闘時に俺に攻撃してきたはず……。それに今、ボロボロの状態で戦ってもやられるのは目に見えてる。ここは一つ、信用してみるか……!)
ユウスケは苦渋の決断の末に、フウカに対して手を差し伸べる。
「まだ完全に信用したわけじゃない。とりあえずだ。」
「うん。今はそれでいいわ。」
フウカはユウスケの手を握って、ニッコリと笑った。
「よろしくね。ユウスケ君。」
ユウスケはオーヴィルの町外れにあるアドミラルホテルのような立派な屋敷へと連れてこられた。
エントランス付近まで歩いていくと、女性らしき人物と執事服に身を包んだ使用人らしき人物が話していた。
「システィ……?」
近づいてみると、その人物はシスティだということに気づき、ユウスケはシスティに駆け寄り、声をかけた。
「システィ!」
「ユウスケ様!どうしてここが……!?」
「やっぱり、ここがクラーク家の屋敷だったのか。」
「いえ、そうとも言えないんです……。」
システィは背後に気配を感じて振り返る。
ジト目で微笑しながら会釈をするフウカに対してシスティは顔をしかめた。
「あなたが今のクラーク家当主ですか。……前の当主 サージュ・クラークはどこに!」
「あー。あの人は死んだわ。没落したクラーク家への絶望感と、私みたいなタダの人間にクラーク家を乗っ取られたショックからね。」
「没落……!?クラークが……!?」
衝撃の事実にシスティは驚き、ユウスケは状況がわからずに困惑する。
「なんとか私が経営を建て直し、全ての名誉を挽回したけど、その時には完全に民衆は私を支持していたし、誰もサージュなんて記憶には残ってなかったわ。」
「そんな……!!」
一人だけ話についていけていないユウスケは、段々と顔が暗くなっていくシスティを見て、咄嗟に話の間に割って入った。
「ま、待ってくれ!とにかく、今はアンタがクラーク家の当主なんだろう?なら今はそれでいいじゃないか。」
「ユウスケ様!?」
叫ぶシスティにユウスケは近づいて彼女の耳元で囁く。
「今は落ち着くんだ。あのフウカっていう子は転移者だ。ここで彼女の反感を買えばルースターの復興はもちろん、俺達の命だって危ない。それに俺は彼女は信用できる転移者だって少し思ってる。だから、ここは様子を見ようじゃないか。」
「……ユウスケ様がそう仰るなら。」
「ねえ!コソコソ話してないで!……もう決めたの?」
密かに話している二人に段々と苛立ってきたフウカは叫んだ。
「ああ。アンタと協力したい。フウカ・クラーク。」
フウカに案内され、クラーク家の屋敷へと入ったユウスケとシスティ。豪華なシャンデリアと煌びやかな壁や階段が二人を迎え、フウカは使用人に声をかけた。
「ユウスケ君。左の部屋で待ってて。……あと悪いんだけど、あなたはここで待機しててもらえないかしら?」
システィは言い返そうとするが、ユウスケが静止させてフウカの指示に従った。
「大丈夫だ。……俺を信じてくれ。」
ユウスケの決意の眼差しにシスティは無言で頷き、フウカは使用人を引き連れて奥の部屋へと入っていった。
ユウスケはシスティを置いてフウカが指示した部屋へと入り、ガラステーブルを挟んで設置してあるソファチェアに座った。
しばらく待機していると、目の前の扉からツインテールだった銀色の髪をワンサイドで束ね、純白のドレスを着たフウカが部屋に入り、使用人が白のティーカップにコーヒーを注ぎ、ガラステーブルの上に二つ置いた。
「どうかした?」
フウカの容姿に少し見惚れていたユウスケだが、フウカの言葉で我に返った。
「どうして俺と同盟を結ぶ気になったんだ?俺は転移者として強くないし、ルースターの地位も落ちた。アンタが俺と協力を組む理由がわからないんだが……。」
「あなたの隠された能力よ。あの時、ディユの人達を圧倒したあの能力をもっと知りたいの。まあ、あなたは意識がないようだったからわからないだろうけど……。」
「いや、わかる。気づいたら疲労感がスゴかったし、俺を踏んでたヤツも吹き飛んでた。アンタが何もしてないなら、何が起こったかなんて大抵わかるさ。」
ユウスケは微笑むフウカに応えるように微笑し、ティーカップを口元に置いてコーヒーを口に含ませた。
「なら話は早いわね。あなたがルースター家を復興させるためにクラークの助けを借りたいなら、研究対象として私に手を貸しなさい。それが私の条件よ。」
「研究対象って、一体なにをすればいい……?」
「別に特別なことは要求してないわ。ただ単に転移者として私に手を貸し、そして戦ってほしいのよ。あの力をもっと知るためにね。」
「どうしてその力にそこまで固執する?」
フウカは立ち上がって、ガラス張りの壁へと歩いていき、ユウスケに背を向けた。
「あれほど鋭く攻撃的な力は今まで見たことがない。だから調べたいし、監視下に置いておきたいのよ。……面白そうだし。」
振り返って、人差し指を口元に立てるように置き、ユウスケに対して微笑んだ。
ユウスケは微笑むフウカから目を背け、ティーカップの取っ手を指で掴んだ。
「それと、どうしてクラークを……。」
「転移者として生きるためなら仕方ないことじゃない?あなただって、ルースター家がなかったらマトモに生きれなかったでしょ?それと同じよ。私は生きるためにクラーク家を手にしたの。」
「そんな理由じゃ、システィは納得しない!それに、生きるために他人を犠牲にするなんて!」
「なら、あのメイドさんにはこう言うのね。綺麗事だけじゃ、この世界は生きていけない。転移者同士のバトルも同じ。あなたもその甘い考えを改めるといいわ。」
フウカはこの部屋に入ってきた扉と同じ扉に手をかけ、こちらに少しだけ顔を向けた。
「これからはここを拠点にするといいわ。じゃあ、また明日会いましょう。」
扉の閉じる音だけが部屋中に響き、ユウスケは額に手を当てて俯いた。
フウカの使用人が案内してくれた二階の客室のシングルベッドにそれぞれ寝るユウスケとシスティは、顔を合わせずお互い壁に顔を向けて会話する。
「あのフウカという転移者と同盟を組んだのですか……。」
「ルースターをもう一度建て直すためなら仕方ない。」
「ユウスケ様の転移者としての願いは〝元の世界に帰る〟ことでしたね。なら、ユウスケ様にはルースター家の未来なんて関係ないのでは……。」
「それがまだわからないんだ。俺は本当に元の世界に帰りたいのか……。確かにあの世界に未練はある。だが、その願いのために他の転移者を犠牲にしたくない。ツバキさんやシュウ、あのブラストだって……。」
ユウスケは口を噛み締め、白のシーツを被った。
「だけど迷っててもしょうがない。だから今はルースターの復興を第一に行動していくよ。そしたら、いつかは答えが見つかるかもしれないしな。」
「……やっぱりユウスケ様は旦那様に似ていますね。目的のために他人に手をかけたくない優しさ。他の人は綺麗事なんて言うかもしれませんが、私はユウスケ様のそういうところ、好きですよ。」
顔を合わせていなくとも、システィの暖かい笑顔がわかったユウスケは、その安心のせいか、すっかり眠りについていた。
カーテンから漏れる日差しのせいで目を覚ましたユウスケ。まだシスティは眠っているらしく、ユウスケは彼女を起こさずに屋敷の一階へと降りていった。
ふとエントランスの方に人の気配がしたので、ゆっくり扉を開けてみると、開けた扉の隙間から銃口が見えて、ユウスケは後ろへ下がった。
「何者だ?お前……。」
S&W M500に酷似した銃身の長いグレーのリボルバーを片手で構えている黒のダスターコートにシャツ、ブラウンのズボンにガンベルトとホルスターという西部劇に出てくるガンマンのような服装をした男は、茶色のウエスタンハットと黒のスカーフで顔を隠し、鋭い黒の瞳がユウスケを刺すように睨んでいた。
「アンタこそ、一体……!?」
「フウカはどこにいる?ヤツに会わせろ。」
(こいつ、まさかフウカの命を狙ってやってきた転移者か!?この只者とは思えない雰囲気に服装。今の俺に勝機はなさそうだが、ここでやらないと俺はおろか、システィまで死ぬハメになる!!)
ユウスケは指輪型ナイフ グランディールを展開して、男に対して構えた。
(この武器……!)
よく見るとグランディールの刀身は僅かにだが、伸びている気がした。それを見た男は薄ら笑いを浮かべ、リボルバーのグリップを握り直した。
「なるほど……。お前がヤツの言っていた転移者……。」
男はリボルバーの撃鉄を下げ、グリップを握る手をより一層強めた。
「ならば試させてもらうぞ。お前の実力……!」
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