Episode10 「残されたドックタグ」

シュウとブラストは屋根伝いを跳び、ちょうどよく整地された空き地を見つけてそこに降りた。

「ここら辺でいいでしょ。」

「転移者とあろう者が、他人の心配か。貴様も甘いな。」

「いんや、違う。俺の戦いを他の連中に邪魔されたくないだけさ。」

「ほざけ…!」

既に展開済みのM134に酷似したガトリング 〝ペルマナント〟をシュウに向けて連射した。

シュウは弾丸の速度よりも早く移動し、ガンベルトの小型ナイフを二本ほど投擲し、ペルマナントの銃身に命中して銃口を逸らした。

「なにッ!?」

咄嗟にガンベルトにかけてあるホルスターに手を伸ばし、SIG SAUER P226に酷似した〝フォンス〟と呼ばれるハンドガンの柄に手をかけて鎧に照準を定めて放った。

しかし、鎧はいとも簡単に銃弾を弾いて再度、ペルマナントがシュウに向けられる。

「銃弾が効かない…?」

「この特典アイテム〝ホロコースト〟に銃弾はおろか、グレネードすらも通用しない。さあ、貴様の特典アイテムを見せてみろ。」

シュウは背中に背負っているDSR-1に酷似した灰色のスナイパーライフル〝シヴァ〟を取り外して、その銃口をブラストに向けた。

「来るがいい。」

大砲のような轟音と共に放たれた特大のレーザー砲はブラストに迫っていく。ブラストは高熱を纏ったブレード 〝ショーブル〟を右手に展開して、そのレーザー砲を上段から切り付けて真っ二つにした。

「この程度か。」

顔色一つ変えないブラストはショーブルを収納して、ペルマナントを再び展開した。

(こいつに正攻法で戦うのは無謀か…。)

シュウは物陰に一度隠れ、フォンスの銃身を曲げて形状を変形させた。すると銃口からレーザーブレードが伸び、ブラストが隙を見せた瞬間に特攻して死角から飛び出した。

「そこかッ……!!」

ペルマナントから放たれる無数の弾丸をフォンスのレーザーブレードで切り裂きながら、もう片方の手に忍ばせた二丁目のフォンスを変形させて、投げ槍のようにブラストへと投擲した。

その予想外の攻撃にブラストは反応が遅れ、躱すも肌が焼かれてしまう。

「ザコの分際で…!いきがるなァ!!」

展開したショーブルでレーザーブレードを受け止め、互いの力の反発のせいで両者とも弾き飛ばされる。

二丁のフォンスはシュウの手元から弾かれ、ブラストもショーブルにヒビが入る。

(こいつちょっとヤバいかも…!強いや…!)

身を起こしたシュウは懐からあるモノがなくなっていることに気づいた。

懐をまさぐり、辺りを見渡すと6つの銀色のドックタグが地面に散らばっていた。

(あの認識票は…。)

ブラストは急いでドックタグを回収するシュウを見て、可能性として考えていたことを確信へと変えた。

「その認識票。やはり貴様は、あの部隊の生き残りか…。」

「…アンタ知ってんだ。このドックタグのこと…。」

「噂で聞いただけだ。貴様の所属していた部隊の名は〝AIB〟という表には出ない日陰の部隊。だが、その部隊は数年前に一人の殺人鬼 ハルトによって無残な姿で殺害された。ある一人の隊員を除いては…。」

シュウはドックタグを収納して、自分の位置から近い方のフォンスへゆっくりと足を進めた。

「その隊員の名はシュウ。それからその男は一人で各国を周り、傭兵として活動していると聞いたが、まさか死んでいたとはな…。」

「アンタには関係のないことでしょ。」

「どうだろうな。」

ブラストはヒビが割れたショーブルを見て、これ以上の戦闘は危険と判断し、前方へペルマナントの銃弾を乱射して、その砂煙に紛れて退散した。

(逃げた…。)


ティアラと共にグロウのアジトへと帰還したシュウは、帰った矢先に隊長室へと呼ばれた。

「お前!護衛対象であるティアラ様から目を離し、見知らぬ人物と戦闘を行ったとはどういうことだ!!」

早速突っかかってくるチェスターからシュウは身を置く。

「相手は民間人もお構いなしに攻撃しそうな雰囲気だったし、それに転移者でもあった。俺がヤツを移動させてなきゃ、更に被害が拡大したと思うけどね。」

「確かに被害は免れたが、ティアラ様を置いて行ったのは任務を放り出したのも同然だ!この代償は高くつくぞ…!」

チェスターはシュウの目を睨み、勢いよく扉を開けて出ていった。

そして今まで無言で話を聞いていたエレンが口を開き、シュウと目を逸らして話を進めた。

「チェスターはああ言ってるけど、つまり君はその転移者からティアラを守るためにわざと置いていったということだね?」

「俺の判断は間違ってなかったと思うけど…。」

「それも一つの手だが、そのバッジでパートナーのヨウや他の隊員を呼んでティアラを護衛させようとは思わなかったのかい?」

「あの時は周りに人もいたし、もし誰かがティアラを誘拐する算段を考えていたとしても、できなかったはずだ。」

部屋に深刻な雰囲気が漂い、それを見ていたティアラが二人の間に割って入りシュウを外へと連れ出した。

「シュウさん。少し落ち着いて下さい。」

「…アンタも俺が置いていったこと気にしてんの?」

「いえ。…実は先程、シュウさんの近くまで来ていて、転移者との会話を偶然聞いてしまったんです。シュウさんが元の世界で仲間を失っていたことや、今まで一人でいたこと…。」

ティアラとシュウは中庭のベンチに座って話を続ける。

「シュウさんが一人で生きてきたのは、もう仲間を失わないようにするためですよね。その素っ気ない口調も人を寄せ付けないようにするためのもの。…私にはわかっていましたよ。シュウさんが抱えている悲しみを。」

「…俺はあの日、家族ともいえる仲間を失った。幼い頃から過ごしてきた仲間が目の前で一人ずつ殺され死んでいく様を、俺はただ見ていることしかできなかった。けど、今は違う。俺の信じる者を俺のやり方で守り、敵と見なした奴らは潰す。」

シュウは懐から6つのドックタグを取り出した。

「だから、アンタくらいは守ってみせる。絶対にね。」


アンジュ郊外の森

「この俺がここまでやられるとは…!」

ヒビが割れたショーブルを見て、ブラストは木を叩いた。

「おーおー。派手にやられたねぇ。」

腰まで長い青いマフラーと、奇妙で不気味な仮面をつけた長身の男は仮面越しでもわかるくらい笑い、ブラストの怒りを更に高めた。

「貴様…なぜここにいる…。」

「アンジュに転移者がいるらしいから見物でもしようかと思ってたんだけど、そのザマじゃ会ったみたいだねぇ。」

「フッ…。その転移者は貴様にとっては好都合かもしれんな。」

「というと?」

「…ヤツは過去に貴様が殺し損ねた〝AIB〟の隊員だ。ハルト。」

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