Episode8 「ふたつの最強」

様々なコンピュータのモニターの画面の光がエイジを照らして後光が差しているようになる中、シュウはニヤリと笑い微笑した。

「ゲームマスター……。」

「この短期間で僕の正体に気付き、そして見つけたのは君が初めてだよ。」

「なら、話は早い……!!」

シュウは腰のガンベルトのホルスターから〝フォンス〟を抜いてエイジに銃口を向けた。

「なんのつもりかな?」

「アンタがこのバトルの統率者なら、アンタを封じれば俺の勝ちってわけでしょ?自分で正体をバラしておいて、愚かだね。」

「愚かなのは、君の方だ。」

エイジがシュウを睨みつけると体が硬直して動かなくなる。手元からフォンスが零れ落ち、エイジは落下したフォンスを手に取った。

「バトルを支配しているのは僕だ。もちろん君達、転移者の存在も……。」

「一体……何が……!」

「この世界では僕には逆らえない。ゲームマスターである僕を殺そうとすれば、君なんてすぐに消せるんだ。」

「チッ……!!」

シュウを硬直させていた力は解かれ、その反動で体がよろめく。

「あと僕を遠距離から倒そうなんて考えても無駄だよ。君たちの行動は常に監視しているから、何をやろうとしても全て筒抜けなんだ。」

「つまり、俺達の命はアンタが握ってるってわけ?」

「転移する直前に渡した〝特典アイテム〟。それを破壊されたり、相手に奪われたりしたらゲームオーバーだ。」

「あのライフルは俺の命ってことか……。」

「うん、そういうこと。……まだ聞きたいことはあるかい?特別にあと一回、なんでも質問に答えよう。」

エイジはシュウにフォンスの銃身部分を握って返し、シュウはグリップ部分を握ってホルスターに戻した。

「じゃあ質問する。」

「どうぞ。」

「アンタはどうして、このバトルを仕掛けた?何が目的で、アンタは何者なんだ?」

「うーん。……質問が多いね。」

「このECシリーズとかいう銃をアンタ一人で作ってるなら並外れた技術力の持ち主だし、そもそも人を別の世界に転移させるなんて技術は現代にはない。アンタ、本当に人間か?」

「僕は列記とした人間だよ。君たちと同じ世界のね。……はい、質問終わり。」

エイジの理不尽な返答にシュウは言い返そうとしたが、詰まったように声が出ない。

「仕方ないなぁ。……じゃあ答えてあげるよ。僕がバトルを仕組んだのは、君の戦う理由と同じ。さぁ、答えたから帰った帰った。」

シュウは不満げながらもエイジに背を向けると自動的に扉が開いた。

「あぁ、それとユウスケ君と会ったら僕のこと言っといてよ。」

「会えたらね。まあ、しばらくは会えないと思うけど。」

扉をくぐってシュウはエイジの前から姿を消した。

「……嫌でも会うさ。あーあ、早く会いたいなぁ。凡人のユウスケ君。」


地下の通路から出て、シュウはグロウのアジトへと戻った。自室へと帰る前にグロウの隊員に呼び止められ、シュウはエレンの隊長部屋に連れていかれ、オフィステーブルに肘を乗せて手を組むエレンと、先程出会ったばかりのティアラがいた。

「アンタは……。」

「聞いたよ。明日、ティアラと出かけるんだって?」

「まあ、そうらしいね。」

「なら今日行くといい。君には明日、頼みたいことがあるんだ。それに今の時間の方がティアラがハワードの王女だと気づかれないだろう。」

「今の時間……?」

「とにかく行きましょう!」

シュウの袖をティアラが引っ張って早く連れ出そうとしてよろめいてしまう。エレンはシュウの肩を叩いて太陽のようなマークが刻印されたグロウのバッジを渡した。

「置いていっただろう。きちんと付けてもらわないと困るね。」

「それはアンタもでしょ。」


シュウはティアラが着替え終わるまで城門の前で待ち、その間に軍服の胸元部分にバッジを付け、背中に大型スナイパーライフル〝シヴァ〟を背負った。

(エイジが言っていたあの言葉の意味……。俺と同じってどういうことだ……。)

そう考えていると、ティアラの声がその考えを吹き飛ばすように後ろから明るく発せられた。

「すみません!待たせてしまって……。」

ティアラは純白のワンピースと麦わら帽子を着用して、金色のロングヘアーが靡かせながら現れた。

「行きましょうか。」

先頭を切ってティアラは城下町に出かけ、その後ろをシュウがつまらなそうに追いかけ出した。様々な露店が並ぶ表通りではしゃぐティアラの行動を見守るシュウはこの街に自分と同じ転移者がいないか度々、人混みの中を観察していた。

(転移者が何人いるのか知らないが、恐らくこの街にもいるはずだ。どこにいる……。どこに……。)

「……シュウさん?」

いつの間にか顔を近づけて接近してきていたティアラに驚いて我に返った。

「もう終わったの?」

「いえ、シュウさんが険しい顔をしていらしたので、何かあったのかと……。」

「アンタには関係のないことだ。」

シュウは顔を逸らし、ティアラはそんなシュウの横顔を悲しそうな表情で見つめる。

「まだ行くんでしょ?なら、さっさと行こうよ。」

シュウはチラッと見えたティアラの悲しげな表情を崩すために、ぶっきらぼうながら話を変えようとした。

「なら……。こちらに行きつけの雑貨屋さんがあるんです。そこに行きましょう!」

ティアラもシュウの気持ちを汲み取って暗い表情をやめ、シュウの手を引っ張る。その時、人混みの奥から怒号が聞こえて、人混みは割れたように分散した。

「おい!てめぇ!!ぶつかってきた癖に、なんだその顔は!!」

黒髪で黒いロングコートとブーツ。そして鋭く目付きの悪い長身の男に、その倍の身長があると思われるガタイのいい男が怒号を吐いていた。長身の男は右眼の眼帯を外して、ガタイのいい男に向けて投げ捨てた。

「なっ!なんのつもりだァ!!」

ガタイのいい男が胸ぐらを掴む寸前に、その腕を掴んで長身の男が眼で睨んだ。

「生きる資格のない弱者が……。俺に楯突くな。」

CZ75に似た黒い銃でガタイのいい男の足を撃ち抜き、絶叫して倒れた男に銃口を向けた。

「死ね。」

その光景を見ていたシュウは腰のガンベルトに装着してあるホルスターから〝フォンス〟を抜き取って、男の銃を撃ち落とした。

「誰だ……?貴様……!!」

「悪いけど、今問題起こされたら俺が困るんだよね。だから大人しく消えるか、それとも連行されるか……。どちらかを選びな。」

「その服装……。なるほど、貴様はグロウか。グロウにこれほどの使い手がいるとは思っていなかった。」

男は全身を黒い鎧で武装し、甲冑で唯一露わとなっている紅い眼が妖しく光った。

「俺の名はブラスト。貴様は何者だ?」

「シュウ。転移者だ。」

その言葉を聞いた途端、ブラストは不気味に笑い、左手にガトリングガン〝ペルマナント〟を展開させた。

「ならば、貴様が最近ウワサの転移者か。……このアンジュで張っていた甲斐があったな。そういうことならば、俺は容赦せん。」

ブラストはペルマナントをシュウに向けて回転させる。

(この場でガトリングを撃つつもりか!?)

周囲にいる民間人を巻き込まないようにシュウは屋根の上に飛翔して、ブラストを誘導する。

「ティアラ。アンタはここにいて。すぐに終わらせる。」

アイコンタクトでブラストを誘導し、ブラストも飛翔して彼の後を追いかけた。

「シュウさん……。」

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