Episode4 「プリンセス・オブ・ハワード」
「それで?どこから探すの?」
椅子から立ち上がったシュウは欠伸をした。
「犯人がいるのは恐らくこの一階か、二階。三階以降はこの場所からでは行けないし、わざわざ逃げ場のない地下には行かないだろうから。」
「ふーん。じゃ、いこっか。」
シュウは一人で歩き始め、ヨウが彼の肩を掴んだ。
「待ってくれ!どこに行こうと...!」
「俺が二階を探すから、アンタはここ。分担して探した方が早いでしょ。」
「な、なるほど...。」
階段から二階へと向かおうとしていたシュウにヨウが思い出したように、とっさに声をかけた。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな!」
「...シュウ。これで満足?」
「それと、エイジの情報では地下でこの街の王族 ハワードが主催するパーティーが行われているらしい。くれぐれも派手な行動は控えるようにとの指示だ。」
ヨウはシュウに太陽のようなマークが刻印されたバッジを投げ渡した。
「グロウの隊員である証拠だ。大抵の場合、それを見せれば捜査として一般人が入れないところも入れる。」
「わかったよ。じゃあ、行くね。」
手を振ってシュウは二階への入口に足を踏み入れた。
階段を上がっていくと、このホテルの従業員らしきタキシードを着た人物が入口の横に立っているのが見えた。
「招待状はお持ちですか?」
「ないけど、これなら持ってる。」
シュウは従業員にヨウからもらったバッジを提示した。
「こ、これは...!グロウの方でしたか!話は上より聞いております。どうぞ。」
パーティーへの入口を開け、シュウはその中に何の遠慮もせず入っていった。
(ここがパーティー会場...。)
シュウの目に飛び込んできたのは、まず豪華なシャンデリアやテーブルに並べられている様々な料理。そしてドレスやタキシードに身を包んだ貴族らしき数百人の人々がそこにはいた。
シュウが視線を横に向けると、そこではオークションらしきイベントが開催されていた。
「もういませんか!?...ではECシリーズの最新型ナイフ 〝トランシャント〟は100万ウェードで落札!」
壇上にてオークションを指揮する紺色のシルクハットを被り、黒のモーニングを着用した男が、透き通るように綺麗な刃をしたナイフを従業員に下げさせ、新たに色鮮やかな台に置かれた二丁のSIG SAUER P226に似た黒をベースにして、その中に銀色の色彩が施された銃が登場した。
「さあ、今回の目玉商品!このHEC-2 HEC-3、別名〝フォンス〟。この武器の特徴はなんといっても銃身を曲げることで銃から剣へと変えられることなのです!」
シルクハットの男はフォンスを手に取り、銃身を曲げると銃口からレーザーブレードが出現した。男は用意された鉄の縦棒をそのブレードで紙のように切り裂き、銃身を元に戻した。
「切れ味も抜群!それと実はこの武器、世間にはまだ公表すらされていない極秘商品なのです!今回、あのECシリーズの開発者と言われているエイジ様から譲り受け、特別にこのオークションに出させてもらえることとなりました!どうでしょう?その武器をいち早くお手元に置いておくのも悪くはないかと。
では、最初は50万ウェードから!」
次々と金額が上がっていくオークションを見て、シュウは多少興味を示したものの、グロウとしての任務を思い出して犯人の捜索に戻った。会場を何度も歩き回りその犯人がいないか探ってみるも、該当するような顔の人物はいなかった。
(てっきり服装を変えて紛れているかと思ってたけど...。)
シュウは会場での捜索を諦めて、従業員に説明して裏方に案内させてもらい、犯人が隠れていそうな場所を探ってみるもおらず、窓や非常扉から脱出した形跡も見られなかった。
(奴は一体どこに...。)
その時、バッジから電子音が鳴り、取り出して光っている横の小さいボタンを押した。
「...ヨウ?」
「そのバッジは短距離限定だけど通信機になっているんだ。それより、伝えなくてはいけないことがある。こっちで気絶させられて衣服を剥ぎ取られた従業員が見つかった。おそらく、犯人はその服に着替えて紛れている可能性が高い。」
「りょーかい。探してみる。」
通信を切り、バッジを服の内側に仕舞った。
(マズイな...。もう何度もここの従業員と接している。奴が俺の顔を覚えているなら、もう逃げている可能性も...。)
そう考えていると、会場ではオークションが終わった様子で賑やかさもなくなっていた。
「では本日の主催者であるハワード家の王女、ティアラ様に登場して頂きましょう。」
会場にいる皆が拍手をし、壇上の奥から薄青のドレスに身を包んだ金髪でハーフアップ、碧眼の一目見て単純に美しいと言える女性が現れた。
「皆様。今回はハワードが主催するパーティーに来場して頂き、ありがとうございます。このパーティーを通して、新たな出会いや親交を深める場となって下さることを期待しております。では引き続き、パーティーを...。」
言い終える寸前に壇上に立っていたタキシードを着た男が台からオークション用の〝トランシャント〟といわれていたナイフを盗んで、ティアラを捕まえて首元に刀身を押さえつけた。
「静かにしねえと、この王女様を殺すぜ!」
会場は騒然となり、悲鳴や逃げ惑う人々で溢れていた。従業員は懐から銃を取り出そうとするが、首元を押さえつけるトランシャントを見せつけて止めさせる。
「まったく、ここの従業員に変装して正解だったなぁ。」
不気味に笑う犯人は従業員に向けて怒声混じりの声で叫んだ。
「おい!ここから脱走させるための足を用意してもらおうか!さっさとハワードに連絡しやがれ!!」
その光景を見たシュウはバッジを取り出してヨウに連絡する。
「やっぱりこっちが正解だった。ハワードの王女様を人質にして、確実な脱走を要求してるよ。」
「わかった!グロウの部隊が到着するまで、手出しはするな!」
「...やだ。一人でやる。これくらい俺だけでもできるし。」
「そうだとしても、人質を傷つける可能性がある!ここはしばらく待機して...!」
通信を強引に切断し、扉を蹴破って犯人の目の前に現れた。
「て、てめぇ...!!」
「まーた、こういう展開か...。」
シュウは転移する前の爆弾事件を思い出しながら、頭を搔いて息を吸い込んだ。
「さっさとそいつ離しなよ。もう失敗したくないからさ。」
威嚇するように睨むと、犯人は圧倒されて歯を食いしばる。
「何もするんじゃねえ!俺が逃げるまで、大人しくしてろ!!」
「やだね。アンタを倒して、そいつを救う。」
犯人に特攻し、頭を蹴ろうとするシュウだが、犯人の柄を握る力が増して蹴るのを中断した。その隙を狙った犯人が逆にシュウを蹴って壇上の奥まで吹き飛ばした。オークション用の台ごと吹き飛んだシュウは、口元にできた傷から垂れる血を腕で拭った。
(もう失敗するわけにはいかない。あの時、爆弾を解除できなかったのは俺が自分の実力を過信していたこと。なら今度は俺の実力をフルに使って、こいつを無力化させる...!!)
シュウは手元の近くに台から落ちていた〝フォンス〟があることに気付き、視線を犯人に戻した。
「そのまま何もするんじゃねえぞ!!」
「...この世界に来て、不運の連続。別の世界なら面白い人生が送れるかと思ってたけど、そうでもなかった。けど、これから何か楽しくなりそう。」
ニヤッと笑い、シュウは手を広げる。
「訳のわからん事を喋りやがって!!このヤロォォォ!!!」
ナイフがティアラの首元に刺さる寸前にシュウはフォンスを手に取り、トランシャントを持つ手を確実に撃ち抜いた。犯人は絶叫して手を抑えてのたうち回り、ティアラは解放された。
会場の扉が勢いよく開けられ、数十人のグロウの部隊が突入してきた。手を撃ち抜かれて悶絶している犯人と、手に銃を持つシュウを見て部隊の人間が一斉にシュウに銃口を向けた。
「待って!彼はグロウの隊員で、僕のパートナーです。」
ヨウが彼らを静止し、シュウは壇上から降りた。
「一人でやったのか?」
「当たり前でしょ。」
「まあティアラ様も無事だから、結果的にはいい。だがパートナーの言う事にも多少、耳を傾けるのも良いと思うけどな。」
ヨウは微笑して、犯人を拘束した部隊と共に会場から去った。シュウもフォンスを手放し、ティアラをチラッと見た。それに反応してティアラは頭を下げて微笑み、それを見たシュウは満足したように続けてこの場を後にした。
辺りが再び、騒然となり、従業員が各貴族と話し合っている中、一人の銀髪ツインテールで純白のドレスを着ている小柄の女性が腕時計型通信機 コンタクターで誰かに連絡する。
「あっ、ソウジ?さっき連絡して、欲しいって言ってた目玉商品。落札したけど、持ってける状況じゃなくなっちゃったわ。けど安心して。もっと良いお土産があるから。」
通信機から不機嫌そうな声が聞こえ、フウカはそっと通信機に声をあてる。
「〝転移者〟を見つけたわ。たぶん、あの森を吹き飛ばした例のヤツ。」
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