二〇 凜と香澄の病室

「凜、香澄、本当にごめんなさい」


 朱理は福島行きが決まった翌々日、二人が入院する病室をおとずれた。


 香澄は凜と相部屋になっていた。


 面会できないかと心配したが、凜は明日退院予定で、香澄も記憶障害はある物の精神状態が安定しており、他に異常も無いことから面会が許された。


 やんわりと確認すると、香澄は保健室に行った後の記憶が曖昧で凜が取り憑かれていたこともほとんど覚えていないらしい。


 凜はセーメイ様をやった後から記憶が途切れ途切れになっていて、由衣が行方不明になった日の記憶はほとんど無かった。


 佐藤加乃子のことを聞いてみると、彼女の行方不明事件を知っていた。


 やはりセーメイ様をやった時に凜は魔物に取り憑かれ、記憶を盗み見られていたのだ。


 朱理は二人が取り憑かれたことには触れず、自分に験力という能力ちからがあり、そのために魔物を引き寄せてしまったことを詫びた。


 二人は顔を見合わせた。


「いきなりこんな事言ったって信じられないよね……」


「いや、信じるでしょ、普通」


「え?」


「だって朱理ちゃんウソつけないし、それに香澄も由衣ちゃんの家に行ってから、ズッと誰かに見られているような気がしてたんだよぉ」


「アタシもよく覚えていない、って言うかそんな状態だからこそ、朱理の言うことが事実だってわかるんだ」


「あ……そうだよね……そうだよ、謝ってすむことじゃないよね。二人をこんなひどい目に遭わせて、それに……由衣なんか……」


「だ~か~ら~、ダレも朱理のせいだなんて思ってないって」


「でも、わたしがいなければ……」


「それを言うなら、朱理は最後までセーメイ様をするのイヤがっていたよね? なのにアタシはムリヤリ参加させた。そんな事をしなければ、アンタが魔物だか悪霊だかを呼び寄せることもなかったんだ」


「香澄も同罪だよぉ、朱理ちゃんに賛成していれば、二対二でセーメイ様をやらなかったかもしれない」


「でも……でも……」


「朱理が自分を許せない気持ち解るよ、アタシも自分が許せないから。由衣が死んだって聞いて、アタシが殺したんだって思った」


 朱理はドキリとした、凜は取り憑かれた時の記憶を取り戻したのだろうか。


「だってそうでしょ、アタシがセーメイ様をやろうって言い出したんだよ。

 それに思い出したんだ、セーメイ様が帰らないのを由衣のせいにした。アタシはその事を由衣に謝っていない……もう謝ることもできない……」


 凜の頬に涙が伝った。


「責任の奪い合いはこれまで」


 母の言葉が口をついて出た。


「え?」


「誰のせいだとしても、もう由衣は帰ってこない。だから今できることを考えた方がいい」


 凜は頬の涙をぬぐった。


「そうだね……」


「わたし、験力の使い方を覚えるために福島に行く」


「それって転校するってこと?」


 香澄が寂しげな表情になる。


「多分そうなると思う……」


「こっちじゃ出来ないの? おじさんもその能力ちからを使えるでしょ?」


「もう二度とこんな事を起こさない、そう決めたの。そのためには、おじいちゃんに教えてもらった方がいいと思う。おじいちゃんは本物のお坊さんで、験力のスペシャリストなんだって」


 実際に悠輝からは、祖父は真言宗系列の修験寺の住職で副業で拝み屋をやっており、験力の扱いには長けていると言われた。


「朱理ちゃん、オジコンなのにいいのぉ?」


 香澄の言葉に思わず凜が微笑む。


「わたしはオジコンじゃない! それにおじさんも一緒に福島に行くし」


「じゃあ、ラブラブだねぇ」


「降矢のことはもういいんだ?」


「だから降矢くんの事だって別に何とも思ってない!」


「プッ、ハハハ……」


「アハハハ……」


「フフフ……」


 三人の笑い声が病室に響いた。


 再び笑えるなんて思っていなかった。


「朱理、戻って来るんでしょ?」


 ひとしきり笑うと、凜が真顔に戻って聞いた。


「うん、どれぐらい時間が必要かわからないけど、お父さんはこっちに残るし、必ず帰ってくるよ」


「待ってるからねぇ。戻ってきたら、また一緒に遊びにいこう」


「うん、約束する」


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