一八 葬儀場

 それから今日までに色々あった。


 警察のじようちようしゆも受けた。


 魔物や験力のことを話しても精神状態を疑われるだけなので、そのことには一切触れず意識を失っていてわからないと言い続けた。


 悠輝が朱理の体調が万全ではないと言う理由で強引に立ち会った。


 強引というのは験力を使い警官の心を操ったのだ。


 叔父曰いわく、人の心は本来絶対に操ってはならない、だが心霊や魔物がらみの時は例外とする。だそうだ。


 そもそも魔物の犯行など立証のしようがないし、本来なら被害者の人間が罰せられることになってしまう。


 朱理には魔物に取り憑かれた時の記憶が無い、と言うことは凜にも同じことが言える。


 つまり、宏美の首をめたことや、香澄を連れ去ったこと、そして由衣を手にかけたことを覚えてはいないのだ。


 凜がその事を知ったらどうなるか、己に非が無いにもかかわらず自分をめ続けるだろう。


 そんなことにはなって欲しくない。


 宏美は何も話さないだろうし、噂が本当なら由衣は少なくとも凜に殺されたとは思われないはずだ。


 朱理が視た宏美の身体からにじみ出た赤い気体、あれは精気だ。


 凜に取り憑いた魔物は由衣の精気を吸い尽くし、ミイラにしてしまったのだ。


 それを知っているのは悠輝と遙香、そして朱理だけだ。


 叔父と母はこういった事にれているのか、誰にも漏らさず墓場まで持って行くと言っていた。


 朱理も一生他言しない覚悟だ。


 でも、宏美と香澄には魔物が引き起こした事件であることは打ち明けたい。


 宏美には悠輝がお見舞いと称して教えた。


 香澄は退院後も体調が悪く寝込んでいて、今日の葬儀にも姿はない。


 焼香の順番が回ってきた。


 由衣の入れられた棺の蓋は、完全に閉じられており顔を見ることはできない。朱理は由衣の遺影を見上げた。


  ごめん、由衣……


 また涙が溢れ、朱理はその場に泣き崩れた。

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