一七 ジューク 弐

「さっきも言った通り原因は叔父ちゃんだ。

 叔父ちゃんがやるべき事を怠ったせいで、由衣ちゃんは生命いのちを失

い、朱理を含めみんなが傷ついた。だから朱理、自分を責めちゃいけない。責

められるべきは叔父ちゃんなんだ」


「そしてお母さんもね」


 今まで口を閉ざしてきた遙香が言った。


「叔父さんは、朱理と紫織に験力があるって言ったら、お母さんとケンカにな

るって判ってた。そうなったら、叔父さんをあんたたちに近づけないことも

ね」


「姉貴……」


「だから言わなくて正解だったの。言ってたら朱理たちを助けられなかった」


「姉貴を説得するところまでが、おれがやるべき事だった」


「それはムリ。あたしはあんたに説き伏せられるほどヤワじゃない。由衣ちゃ

んが行方不明になっていなかったら、朱理の験力を絶対に認めなかった」


「どんな自信だよ」


 悠輝があきれた顔をする。


「だから責任の奪い合いはこれまで」


「解った。朱理もいいな、うらむならお母さんを怨め」


「怨むのはおっちゃんね」


「うん……」


 思わず笑みがこぼれた。


 母と叔父、家族はいい。どんなに辛くても暖かく明るい気持ちにしてくれ

る。


 なのに由衣はもう家族と話すことも、一緒にいることも出来ない。


  そしてわたしたちも……


 たしかに朱理は自分の能力ちからについて知らなかった。


 それでも自分がいなければ由衣は生命いのちを失うことはなかったのは

事実だ。


 今でも凜と香澄と一緒に、学校に通い、部活をして、一緒に遊んで、ケンカ

したり、泣いたり、笑ったり……


  わたしさえいなければ……


 叔父や母を怨めれば少しは気が楽になるかも知れない。


 だが朱理は解ってしまった、叔父や母が今まで朱理が占いやおまじな

いに近づかないよう色々手を尽くしていたことを。


 験力について触れていないだけで、警告はずっと受けていたのだ。


 仮に験力について知っていたら朱理は凜たちのセーメイ様の誘いを断っただ

ろうか。


 発火現象以前にそれらしい兆候の記憶はない、きっと自分には験力など無い

と思っていたはずだ。なら断り切れず参加しただろう。


 それとも凜たちに自分には超能力があるかも知れないと、前もって相談して

いたか?


 凜たちは絶対に信じなかったはずだ。


 それどころか由衣あたりがからかい半分で、超能力があるなら占いが良く当

たるはずと、更に強引に誘ったかもしれない。


  やっぱりわたしが……


「わたし、どうなるの?」


 思わず口から言葉がこぼれた。


「お前の験力をどうすかって事か?」


 本当はもっと漠然とした自分の未来のことだったが、朱理はうなずいた。


「叔父ちゃんが験力の使い方を教えるつもりだったけど、今回の件で考えが変

わった。お母さんと同じように封印した方がいい」


「封印……? それって叔父さんがやるの?」


 悠輝はにがむしを噛みつぶしたような顔をした。


 なぜそんな顔をするのか解らずバックミラーを見ると、母は叔父以上に眉

《み》けんしわを寄せ顔をしかめているしている。


「出来ないんだ……」


 うめくように叔父が言う。


「どうして?」


 何気なく呟いたが、悠輝は傷ついたような顔をした。


「封印の仕方を知らないんだよ」


「それじゃあ誰がやるの?」


「……お母さんの父親だ」


「あんたの親父でしょッ」


 吐き捨てるように遙香が言い、悠輝が前の席を睨む。


 さっき朱理に自分を怨めと言い合った時と違い、ピリピリしている。


 察するに二人とも祖父とうまくいっていないのだろう。


 だがそれ以前に、


「おじいちゃんって、生きてたの?」


 母と叔父に祖父母について聞いても、いつもはぐらかされて、ほとんど何も

知らない。


 朱理はその理由をすでに二人が他界しているからだと思っていた。


「生きている……はずだ。上京してから一度も連絡取っていないけど……」


「え?」


 叔父は上京して六年ぐらい経っている。


 母の様子を見ると、こちらも叔父同様、もしくはそれ以上に祖父と連絡を取

っていなようだ。


  ホンキで関係がこじれてるんだ……


 相変わらずあきれた姉弟だ。


「ねぇ、おばあちゃんも生きてるの?」


 おばあちゃん、父方と母方それぞれの祖母がいるのは当然なのだが、朱理に

とって祖母と言えば父方だけだった。


 改めてもう一人祖母がいると思うと不思議な気分だ。


「残念だけどお婆ちゃんは、叔父ちゃんがまだ小さい頃に亡くなっている」


「そう……」


 何だかガッカリした。


 でも初めておじいちゃんに会えるのだ。父方の祖父は朱理が生まれる前に他

界している。


「悠輝、やっぱり何とか出来ないの?」


「出来るならとっくにやってる」


「あんた修行してたんでしょ?」


「姉貴は実際に封印されたんだろ?」


「やり方まで覚えてない」


「やり方なんて聞いたこともない」


「調べればいいでしょ?」


「どうやって?」


「ネットとか色々あるじゃないッ?」


「験力の封印方法がネットに転がっているのか?」


「だからッ!」


「もう二人ともやめて!」


 見かねて朱理は声を上げた。


「ごめん……」


「ゴメン……」


 子供の前で醜態をさらしたことに気付いたのだろう、母と叔父は見事にハモ

ってしゅんとした。


「悠輝、封印がダメならせめて修行で何とかならない? それならあたしもや

り方は解るし……」


「朱理だけなら何とかなるけど、紫織がいる。


 あいつは朱理以上に強い験力を秘めているから、覚醒したら何が起こるか判

らない。


 朱理ですらこんな事になったんだ、たとえ姉貴の力を借りても紫織の時対処で

きるか正直自信が無い」


「そうよね……。子供みたいにワガママ言ってる場合じゃないわね。朱理と紫

織には、あたしみたいな思いをこれ以上絶対にさせない」


「うん」


「朱理、そう言うわけだから落ち着いたら福島に行くわ」


「福島?」


「そうだ、福島県郡山市。そこがお母さんと叔父ちゃんが生まれ育った場所

だ」


「おじいちゃんがいるんだね」


 母と叔父がまた嫌そうな顔をする。


「そうだよ……」


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