一一 八千代市立安宗中学校 弐
二時限目の授業終了告げるチャイムが鳴り響いた。
「起立ッ、礼」
生徒全員が頭を下げ、やっと解放された。
香澄の様子を見に行くため、朱理は教室を出た。
「朱理ッ」
血相を変えた凜が廊下を駆けてくる。
「どうしたの?」
「香澄が保健室にいない!」
「えッ?」
念のため朱理は凜と一緒に保健室に向かった。
そして凜の言うとおり、どこにも香澄の姿は無かった。
「先生、一年一組の中林香澄は、いつ出て行きました?」
朱理は保険医の吉田知子に尋ねた。
「え? 一度も見ていませんよ」
「どういうことですか?」
思わず凜の顔に視線を移す。
「アタシが香澄を連れてきた時、先生はいなかったんだ」
一時限目の休み時間、吉田は他の仕事で席を外していた。そして運悪く、その時は香澄以外誰も保
健室を利用していなかった。
「とにかく、探してみよう。先生、庄司先生に……」
「伝えておくわ、相良さんと真藤さんは、授業が始まる前には教室に戻りなさい。渡部さんのこともあるから」
凜にうながされ、朱理は保健室を出た。
「どこを探す?」
廊下を走りながら凜に尋ねる。
「それは……」
凜は言葉を詰まらせた。
もう香澄は学校には居ないだろう。学校を抜け出すにしても、探す当てがない。
「コラ、廊下を走らない!」
注意され思わず二人で立ち止まる。
振り向くと宏美が立っていた。
「先生……」
「どうしたの、二人して血相変えて?」
朱理は一瞬素直に話すか
「香澄が保健室から居なくなったんです」
「えッ、吉田先生は居なかったの?」
朱理と凜は宏美にいきさつを簡単に説明した。
「あの、アタシたち……」
「探す当てはあるの?」
「それは……」
問題はそこだ、どこを探せばいいか見当もつかない。
「自宅には連絡した?」
「いいえ、たぶん庄司先生からすると思います。でも……」
「帰宅したとは思えないってことね」
朱理は凜と一緒にうなずいた。
「ねぇ、一つ聞かせて。
セーメイ様で何かおかしな事が起こったんじゃない?」
宏美が声のトーンを落として尋ねた。
「それは……」
朱理は凜の顔に視線を向けたが、凜も困った顔をしている。
宏美の様子を見たが、無表情で考えを読めない。
「あの……先生が来た後、セーメイ様に帰ってもらおうとしたんですけど……」
「朱理ッ?」
凜が遮ろうとしたが、朱理はそれを手で制した。
「うまく行きませんでした。そして十円玉が凄く熱くなって、紙が燃え上がったんです」
「そして渡部由衣が姿を消した……」
宏美の顔は蒼白になり、どこか遠くを見ているような眼をした。
「先生?」
由衣が行方不明になったのがショックなのだろうが、それにしてもこの反応は何か変だ。
「昔……ずっと昔、こっくりさんをやった女の子が行方不明になったの、この学校で」
「え? 先生、何を言っているんですか?」
宏美がボソボソと呟くように話し始め、朱理は戸惑った。
「あの日の放課後、あの
誰が言い出したのか、こっくりさんをやることになったの。
あの娘は最後まで嫌がっていたけど、結局他の娘たちに押し切られて参加した。
相変わらず楽しい時間が流れていった。
それが変わったのはこっくりさんが帰るのを拒んだ時。
一番怖がっていたあの娘が、姿を消したのはその翌々日……」
これって、わたしたちの事を言ってるの?
でも、いなくなったのは嫌がってたわたしじゃない……
「先生、その行方不明になった子、名前は『さとうかのこ』じゃありませんか?」
どこか遠くを見つめていた宏美は、初めて朱理に気が付いたような顔をした。
「知っているの?」
「セーメイ様が自分の名前をそう答えたんです」
宏美は納得したようにうなずいた。
「やっぱり
「先生、『さとうかのこ』を知ってるんですね」
「彼女は、佐藤加乃子は、ワタシの友達だった」
「どうなったんですか、加乃子は? 彼女が由衣と香澄を誘拐した犯人なんですか?」
「……………………」
虚ろな視線で宏美は朱理を見つめた。明るい彼女のどこに、この闇は潜んでいたのだろう。
「先生ッ!」
「来て」
そう言うと宏美は朱理たちの脇をすり抜けて下駄箱へ向かった。
今の担任について行って良い物か迷い、朱理は凜に顔を向けた。
彼女も朱理同様戸惑っているようだったが、結局宏美を追いかけた。
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