九 F棟404号室

 思いつく事をやり尽くし、悠輝は帰宅した。


 そして彼が自宅に着く頃、朱理たちは警官に伴われ、安宗中に登校させられていた。


 完全な思い上がりだった。


 自分は験力の修行が嫌で逃げ出した腰抜けなのだ。


 脳裏に憎悪する男の顔が浮かぶ。


「あいつなら、こんなミスはしないか……」


 悔しさがこみ上げたところで、腹が鳴った。


 朝食を採っていないことに思い出す。それはつまり梵天丸も朝ご飯抜きの状態ということだ。


 梵天丸には朝と夕にドッグフードを与えている。


 仕事があるので夕方は大抵朱理がエサをやるが、朝は必ず悠輝が与えていた。


 因みに昼も遙香が仏壇に上げたご飯を与えている。カロリー計算はしているので、エサの回数は多いが、梵天丸は太ってはいない。


 ドライフードに水をかけ、少し柔らかくする。そのまま与えると胃に張り付いてしまう事があるからだ。


「遅くなってゴメンな」


 悠輝はドックフードにそれなりの拘りがある、自然素材をうたうニュートロのワイルドレシピという銘柄を通販で購入していた。


 梵天丸には健康でいて欲しいので、自分の食事以上に気を遣っている。


 因みに悠輝の朝食はカロリーメイトのフルーツ味だ、昨日はチーズ味だった。


 一瞬の朝食を終えると睡魔が襲ってきた。


 無理もない、匣を開けるだけで験力を大量に使ったのに、由衣を探すために幾つもの呪術を試した。


 体力も気力も限界で頭が回らない。何とか由衣の居場所を突き止めたいが、方法がまるで思いつかない。


 由衣の棟の前にパトカーが止まっていた。警察も捜査を始めたのだろうが期待は出来ない。


「何とかしないと……」


 頭を必死に働かそうとする気持ちとは裏腹に、意識は闇の中に飲み込まれてしまった。

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