七 F棟404号室

 朱理たちが学校に強制連行されている頃、悠輝は自宅に戻ってきた。


「クソッ」


 思わず悪態が口を吐く。


「クゥ~ン」


 駆け寄ってきた梵天丸が不安そうに見上げる。


「ごめんな、お前にまで心配かけて。おれは大丈夫だよ」


 しゃがみ込んで愛犬のあごをなでる。


 大丈夫じゃないのは渡部由衣だ。


 かつだった。


 朱理の事ばかり気にして、他の少女たちを軽視していた。


 由衣が何かに脅えていると聞いた時も、気のせいだろうと高をくくっていた。


 狙われるのはあくまで朱理だと決めつけていたのだ。


 念のためB棟に行った時も、特に何も感じず油断しきっていた。強引にでも由衣の部屋に入っていれば、こんな事にはならなかったかも知れない。


 彼女の部屋に入った時、目に視えない何かが部屋に居る気がしたと朱理も言っていたではないか。


 姪はかくせいしつつある、何故ちゃんと耳を傾けなかったのだろう。


 匣もそうだ、後回しにして朱理が呼び寄せたモノを突き止めるべきだった。


「御堂の奴、よりによってこんな時に……」


 いや、彼女に罪はない。


 彼女の霊視能力を持ってしても悠輝の状況は判らないだろうし、そもそも匣を送れと言ったのは自分だ。


 優先順位を間違えたのは己の責任だ。


 悠輝が由衣の失踪に気が付いたのは、朱理が由衣の家に行く五時間ほど前だ。


 御堂が送ってきた匣を開けるのに結構手間取ってしまった。


 何の対策も無しにこじ開けていたら、それこそ呪殺されかねないレベルの念が込められていた。


 これだけの呪力を使える呪術師を悠輝は知らない。

 厳密言えば何人か心当たりはあるが、彼らはこのような質の悪いまじないは使わない。

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