六 稲本団地四街区

 翌日、朱理は由衣を迎えにB棟へ向かった。


 そして、建物の前に止まっている一台のクルマに釘付けになった。


 パトカーだ。嫌な胸騒ぎを覚える。


「朱理」


 振り返ると凜と香澄が立っていた。


 二人とも朱理と同じ気持ちなのだろう、青ざめた顔をしている。


 特に香澄の顔色が悪い。


 言葉も交わさず三人は一〇二号へ向かった。


 悪い予感は的中した。扉を開けたままの玄関に、若い警察官が立っている。


「あの、何かあったんですか?」


 凜が尋ねた。


「君たちは?」


「由衣の、この家の子の友達です。彼女は無事ですかッ?」


 すがるように朱理の腕を香澄がつかんだ。


 朱理も香澄の手を握り返す。


「凜ちゃん?」


 奥から由衣の母がやつれた顔で出てきた。


 後ろから、ガッチリとした中年の警察官が付いてくる。


「おばさん、由衣は?」


「昨日の夜中に居なくなって……」


 恐れていたことが現実になった。


「誘拐、ですか?」


「今は何とも言えないね」


 由衣の母が答える前に、彼女の後ろに立っていた警察官が答えた。


「君たち、彼女の行きそうな場所に心当たりはない?」


 警察官は朱理たちに質問を始めた。


 自分たちの名前や住所から、由衣との関係、最近の彼女の様子まで事細かに聞かれた。


 由衣の事が気になり早く家を出たにもかかわらず、授業開始に間に合わない時間になった。


 警察官が学校に遅れる旨を連絡してくれたが、もう授業どころではない。


 一刻も早く由衣を探しに行きたい。


 質問が終わり、やっと解放してもらえると思ったら、若い警官が学校まで送ると言い出した。


 自分たちだけで大丈夫、それより由衣を探して欲しいと凜が訴えたが聞き入れてはくれなかった。


 向こうも朱理たち登校しないことを予想しているのだ。


 警察官に監視されながら三人は、遅刻して学校へ送られた。


 その間、香澄はずっと朱理の腕にすがり付いていた。


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