第243話 地下空間
「――どうでしょう? 納得していただけましたか?」
ラウロなりの考えは十分納得のいくものだった。
中立国であると周辺国家から認められていて、なおかつ世界中に多くの信者を抱えていることがノイトラール法国の強みなのだろう。
「それしかないって思えるほどには納得がいく話だったよ。ありがとう。本当に参考になった」
ノイトラール法国に関する情報はもう十分に得たと言えるだろう。後はラウロたちに依頼された謎の魔物を見つけ、そして倒すだけだ。
フラムを一人で長時間待たせてしまっていることもあり、ここは素早く片付けて、さっさとフラムと合流したいところである。
「いえいえ、お役に立てたようでなによりです。正直なところ、コースケさんに納得していただけてホッとしています」
ラウロは本当に心底安堵したようで、胸に手を当てて大きく息を吐く仕草を見せる。それに伴い、表情にも多少の余裕が出てきていた。
「そんなにプレッシャーを感じさせるつもりはなかったんだけどなぁ」
「いやいや! 緊張しましたよっ! 僕たちの依頼を手伝ってもらっているのに、それに釣り合う情報を提供出来なかったら、と考えると申し訳無さすぎて……」
「……わ、私も緊張してました」
そこまでラウロたちが思い詰めていただなんて、全く考えもしていなかった。
特段、圧を掛けたり怖がらせるようなことをした覚えはないのだが、どうしてそこまで緊張してしまっていたのだろうか。全くもって謎である。
「うーん……よく分からないけど、なんかごめん。怖がらせるようなことをしちゃってたかな?」
「勝手に僕たちが緊張してしまっただけですので、コースケさんたちは気にしないで下さい。――あ、そうだっ! もうこの話は終わりにして何か別の話をしませんか? 謝罪合戦みたいになっちゃいそうですしっ!」
暗くなりそうな雰囲気を嫌ってか、ラウロは努めて明るく振る舞ってくれているようだ。年下だと言うのに俺より余程気が利くラウロに感心しつつ、ありがたく話に乗っからせてもらうことにした。
その後、雑談に花を咲かせながら歩き続けた俺たちは、完全に日が落ちた午後七時をちょうど回ったタイミングで目的地へと到着したのであった。
そこに害意を持った存在が俺たちを待ち受けているとは知らずに――
――――――――――――――――――――
時は遡り、午後二時。
「ふぁ〜あ……。暇だし、なんだか眠くなってきたぞ……。少し食べ過ぎたのかもしれんなぁ〜」
紅介たちと行動を別にしたフラムは教会の近くにあった高級レストランのテラス席で食事をしつつ、教会の監視をしていた。
しかし教会の近くとはいっても、教会の正面入り口とレストランとの距離は二百メートルほど離れているのだが、この程度の距離であればフラムにとって然して問題はない。十分に監視が可能な距離であった。
何故なら、視力・聴力ともに人の水準を遥かに上回る感覚器を竜族は持っているからだ。そんな竜族の王であるフラムは竜族の中でも更に別格のものを持っていた。
故にフラムは、教会から程よく離れた場所で監視と教会の前に集まる人々の会話を盗み聞きしていたのである。
「……んっ?」
大きな欠伸をし、うとうとしかけていたその時だった。
教会の前に集まる人々が少し気になる話をしていたところをフラムの聴力が捉える。
「治癒スキルをお持ちの皆様、本日はお集まりいただき誠に感謝致します。聖ラ・フィーラ教は皆様ご存知の通り、治癒スキルを所持している方々を世界各国から幅広く募集しており、そのお力を怪我をしている人々のために使っていただこうと考え、この場を設けさせていただきました」
話の内容からして、この声の持ち主は教会関係者だろうとフラムは察する。そして、教会の前に集まる人々が治癒スキルを所持しているであろうことも。
「あのっ! 聖ラ・フィーラ教に入信すれば、手厚い待遇で迎えられるという話は本当なのでしょうか?」
「はい、勿論でございます。その件につきましては教会内で詳細をお話し致しますので、どうぞ中へお入り下さい」
(……ふむ。そう言えば魔武道会で神官服を着た治癒魔法士を見た覚えがあるな。確かナタリーの話では、教会は治癒魔法士を集めて金を稼いでいるとのことだったが、その話は本当だったようだ)
フラムは以前ナタリーから聞いた話を思い出していた。
教会の主な収入源は治癒魔法士による怪我人の治療にある、と。
(さて、どうしたものか……)
フラムは数瞬悩んだ末に、教会前にいた人々が教会関係者に連れられて教会内に入っていく姿を見届けることに決めた。
何の考えも無しに、敵地に踏み込むことを嫌ったからである。
当然ながら、フラムは臆したわけではない。ただ単純に教会を破壊することだけが目的であったなら、フラムは何も躊躇わずに破壊の限りを尽くしただろう。
だが、そんなことを己の主が望むはずがないと理解していたからこそ、踏みとどまったのである。
(うーむ……。私は隠密活動に向いてないし、ここはイグニスを呼び寄せて私に与えられた仕事を丸投げするのもあり……か? いや、それはダメだな。私の有能さを主に知らしめるせっかくの機会を失ってしまう)
実のところ、フラムはイグニスと主従契約を結んでいた。無論、口約束などのぬるい契約の類いではなく、それなりに拘束力のあるスキルによる契約だ。
そのスキルの名は――
対象と主従の契約を結び、主のいる場所へ強制転移させる能力である。一見、強制力のある支配系スキルのように見えるが、このスキルは互いの合意なしには契約を結ぶことは出来ない。なおかつ、強制的な命令権を主が持つということもないため、実質ただの転移系スキルに近い性質しか持っていないのである。
そのため、普段イグニスがフラムの命令に従っているのはスキルによるものではなく、自分の意思によるものだった。
結局フラムは何かしらの手柄を立てるべく、一旦会計を済ませてレストランを後にした。
そしてその足で向かった先は教会の裏手にあった広場。
広場の中心には大きな噴水があるものの、それ以外には特にこれといったものは何もない。精々白く塗られた木製のベンチが数脚設置されてある程度であった。
その白塗りのベンチの中で一番教会に近いベンチに腰を掛けると、フラムは教会内の人の反応を探るべくスキルを使用した。
(……ほう。かなりの数の人間がいるようだな。五百を優に超えているぞ。この中に侵入するのはなかなか骨が折れそう――んっ?)
不可思議な場所で人間の反応を複数キャッチしたフラムは首を傾げた。
その場所とはフラムが今いる広場のちょうど真下。つまり、この広場の真下に地下室のような空間があるということだ。
(この広場の地下に何かあるのか? だが、地下に繋がる入り口のようなものは周囲には見当たらないな)
フラムはベンチから立ち上がり、広場を軽く散策してみたものの、やはりと言うべきか噴水とベンチしかない広場では、地下へと繋がる入り口を発見することは出来なかった。
(んー、やはり見つからなかったか。だが、まぁいいだろう。この情報は何かしらの役に立ちそうだし、主への手土産にちょうどいい。……うむ、少し歩いたらまた腹が減ってきたな。さっきの飯屋に戻るとするか)
フラムは面白そうなネタを手に入れたと上機嫌になりながら、先ほどまでいた高級レストランへと踵を返した。
今回得たネタが、『
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