第67話 不吉な予感

 ディオン率いる後続のグループが扉から現れ、合流を果たす。


 俺は後続グループの戦いの内容を知るためにディアとフラムに近付き、話を聞くことにした。


「お疲れ様。そっちのグループの戦いはどうだった? 見たところ怪我人はいないようだけど」


 合流をしてきたグループの生徒たちを軽く見渡す限り全員無事のようで、互いの戦いぶりを興奮した様子で語り合っている。


「こっちのグループは数に物を言わせた戦い方だったよ」


 ディアの説明を聞く限り、どうやら物量で押し潰すような戦術をとったようだ。


「あれは連携とは言えないものだったぞ。遠距離から魔法でダメージを与え、瀕死となったところを武器を使って袋叩きにしていたからな。あの人数がいなければ無理だっただろう」


 フラムの話している表情を見ると、少し納得がいっていないといった顔をしていた。


「まあそれでも全員が戦闘に参加したみたいだし、とりあえずは良しとしよう。こっちはアリシアとリゼットが主軸となって戦っていたけど、中々見事な戦いぶりだったよ」


 そうは言ったが、俺が見ていたグループはアリシアがいなかったとしたらあそこまで機能せず、後続グループと同じような戦術を取っていたと俺は考えている。


 アリシアのカリスマ性によって、あそこまでの戦いが出来たとみて間違いない。それほどまでにアリシアに依存していた。




 後続のグループが合流してから三十分程の休憩を挟んだ後、六階層へと歩みを進めた。


 十分程で六階層に着き、辺りを見渡すと、それまでの階層とは少し異なった光景が広がっているのに気が付く。


 木々が生い茂り、緑豊かな光景が広がっているのはそれまでの階層と変わらないのだが、地面には草花などが生えておらず、砂漠のような地形になっていたのだ。


 砂漠の上に木が生えているのか?


 俺は少し気になり、近くの木を軽く揺らしてみることにしたのだが、しっかりと根を張っているためなのか、びくともしない。


「先生、何をなさっているのでしょうか?」


 アリシアに急に話しかけられたことで、誰の目から見ても不審な行動をしていた俺は少し気恥ずかしくなってしまう。


「ははは……。少し気になってね」


 頬を掻きながら苦笑いを浮かべ、アリシアにそう答えるのが精一杯であった。


「確かに少し不思議な光景ですね。砂漠に森があるなんて。それにとても暑いです……」


 暑いのか。『スキル:熱耐性』を思っているから全く気付かなかったな。暑いとなると、生徒たちの体力の事を考えて行動した方がよさそうだ。


「水分をまめに補給しながら進んでいこう」




 それから、一時間に一回は短めの休憩を挟みながらも順調にダンジョンの攻略を進めていった。


 出現する魔物はそれまでの階層とあまり変わりはなく、多少種類が増えた程度で、強さ的にも特に問題はない。


 現在は八階層の安全地帯までたどり着き、生徒たちは今頃テントの中で熟睡しているところだ。


 そんな中、俺はディアとフラムと一緒にテントの外で雑談をしていた。


「主よ。少し嫌な予感がするのだ」


 唐突にフラムが、真剣な表情でそう話す。


「え? どうして? 今のところ結構順調に進んでるし、明日にはダンジョンを攻略できると思うけど」


「そういうことではないぞ。今日も様々な場所に魔石が転がっていた」


「確かにそれは不自然だけど、それらしき冒険者と会ってないんだよなぁ」


「いや、主よ。私が魔物を間引きに向かっている場所は基本的には人が歩いて進むような道はないのだ。そんなところでわざわざ魔物を倒すのはおかしいと思わないか?」


 フラムの言うとおりかもしれない。わざわざ歩きにくい森の深くまで行き、魔物を倒すのはまだわかる。しかし、魔物を倒しておいて魔石を回収しないというのはあまりにも不自然すぎる。


「何かフラムは気付いたことはないかな?」


「気付いたことか……。一つだけわかることがあるぞ。その者は風系統魔法を使って魔物を倒したのだろう。そこら中の木に風の刃で傷をつけられた跡が残っていた」


「なるほど。他には人数とかはわからないかな?」


「残念ながらそれはわからない」


「ありがとう。参考になったよ」


 明日からは『気配探知』を常に使って行動しようと心の中で決めたのだった。



―――――――――――――――――――


 生徒たちが眠る、テントの中の一つでディオンは眠れずにいた。

 その原因は興奮から来るものだ。


(もうすぐだ……! 僕をコケにしたあいつに復讐できるのは! いや、あいつだけじゃない。他の講師の奴らも僕は許さない)


「ふふふ……」


 復讐が成功した後の事を想像し、思わず小さな笑い声が漏れてしまう。


(落ち着くんだ。計画は完璧で失敗することなんてありえない。だが、もし奴らがやられた瞬間を見てしまったら、笑いを押さえられないかもしれないな。そんなミスをしたら僕が疑われてしまう。我慢をしなければ)


 目を瞑り、深呼吸をすることで心を落ち着かせようとするが上手くいかない。


(ちっ……! 今日は眠れそうもないな……)




 結局ディオンは眠れずに、いつの間にか起床の時間となり、テントの中にいる他の生徒たちが目を覚まし始める。


 その中の一人であるディオンの取り巻きがディオンの顔を見て、話しかけた。


「おはようございます。ディオン卿」


「ああ」


 短くそれだけを返す。


「少し顔色が悪いようですが、いかがなさいましたか……?」


 ディオンの目の下にクマができていたことに気付いた取り巻きは、心配そうな表情を浮かべながら、続けて声をかけてきた。


「いや、少し昨日の戦いを思い出してしまい、興奮して眠りにつけなかったんだ」


 咄嗟に嘘を吐き、その場を誤魔化す。


「それは仕方ありません。ディオン卿の活躍は素晴らしいものでしたので」


 そんな嘘に気付くはずもなく、取り巻きの生徒はディオンに対して機嫌を取るような言葉を並べたのだった。




 そしてその日、ディオンの復讐が紅介に襲いかかるのであった。

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